Yarn We Adore: Brooklyn Tweed
初出: 2014年 amirisu 4号
Interviewed by Meri
All photos courtesy of Brooklyn Tweed.
美的センス。神様は平等にではなく、ある人には潤沢に才能を与えているのだと、ジャレド・フラッドの作品に触れた瞬間に感じます。美しいものを作る才能に恵まれたジャレドが、この号のゲスト。彼自身について、そしてブルックリン・ツイードについて聞きました。
amirisu: ジャレド、この号に参加してくれてありがとう。
このようなかたちで会話ができることになって、とても感激しています。なぜなら、ジャレドの作品に出会ったことが、自分の編み物の見方を変えてくれたから。世界中の多くの人が同じ気持ちだと思います。早速質問に移りましょう。
編み物との出会い、そしてこれまでの関係について教えてくれますか?最も影響を受けたのは誰?
Jared: 編み物との出会いは2回。2度目の出会いが決定的なものになりました。
僕は3人兄弟の末っ子で、学校に上がるまでの2年間、日中母と2人きりで過ごしていました。母は裁縫、キルト、編み物など一通りこなす手芸家で、僕は幼いころから興味を示してマクラメから編み物、刺繍、裁縫などを教えてもらっていました。それぞれワクワクしながら学んだものの、特にどれかにはまるということも無く、16年が経ちました。
大学2年とき、冬休みから帰って来たハウスメイトの1人が、一緒に住んでいた我々に1つずつ手編みのマフラーをプレゼントしてくれました。その優しさに感動したと同時に、友人がそんなステキなものを手作りしたということに惹かれ、編みかたを教えてほしいと頼みました。
初心者にはお決まりのマフラーにはすぐに飽きて、セーターや帽子にチャレンジしようと思ったのですが、何から始めたら良いのか分かりませんでした。それで母に連絡したら(当時はキルト作りに熱を上げていて、何年も編んでいなかったのですが)、また2人とも編み物にハマってしまったのです。そしてウサギの穴を転げ落ちて行きました(笑)。
amirisu: お母さんと共通の趣味を持っているなんて、本当に素敵だし貴重なことですね。編み物に加えて、写真についても聞きたいです。ブルックリン・ツイード以前、編み物と写真は全く別個の趣味でした。それを組み合わせようと思ったのはなぜですか?
Jared: 必要に迫られて、でしょうか。同じ興味を持つ人たちと繋がりたくて、2005年にブログを始めました。ちょうどワシントン州からニューヨークに引っ越して、フルタイムの事務職に就いたばかりでした。アートスクールを卒業したばかりの自分にとっては、マンハッタンでの仕事の日々は辛いものでした。何ヶ月か経つと次第に空虚な気持ちになり、大学時代の創造性に富んだコミュニティが恋しくなってきました。
そんなとき思いついたのが編み物と写真を組み合わせることでした。新しいコミュニティと繋がることができ、さらに自分の創造性を取り戻すモチベーションも高めてくれました。写真は編み物を続ける口実に、そして編み物は写真を練習するための被写体にもなりました。
もちろん、このブログがまったく新しいキャリアに繋がるなんて想像していませんでした。それからは、色々なことがすべて段階的に自然発生的に起こりました。
amirisu: 編み物に夢中になると、大抵の人は糸を染めたり紡ぎを始めたりしますよね。それが、なぜ毛糸を製造することになったんですか?
Jared: 僕も最初は紡ぎをやってみたんですよ。きっとそれで糸を作ってみようという考えが浮かんだんでしょうね。
2008年に始めてTNNA(編み物とニードルアートの見本市)に参加し、それまで知らなかった新しい世界に触れることができました。世界中から集まる紡績関係者にそこで出会い、話しているうちに、手紡ぎも機械を作った紡績もそんなに違わないんだということに気付いたのです。基本的な考え方などは同じなんです。
手紡ぎのような心遣いをもって、一貫した質の糸を大量に作る(そして大勢の人と共有する)というアイデアに夢中になりました。そこで、自分独自の糸を開発し生産するにはどうしたらいいか、リサーチを始めたのです。
amirisu: ツイードの糸を作ることになったのは、今の紡績工場のオーナーに出会ったからなのですか?それとも最初から「こんな糸が作りたい」という明確なイメージがあったのでしょうか?
Jared: 紡績工場を探し始める以前から、こんな糸が作りたいというハッキリとしたイメージを持っていました。わがままに聞こえるかもしれませんが、こんな糸が欲しいのに見つけられない、とずっと自分自身が思っていたウールスパンの糸です。
ご存知の通り世の中には既に沢山の毛糸が売られており、今までにない毛糸を作るなんて不可能な馬鹿げた話にも聞こえますが、でも自分が欲しいと思っている糸はちょっと違う、という直感を信じました。
紡毛糸を手紡ぎする方法を覚えたとき、糸の中に空気が閉じ込められることでより温かく軽くなることに感激しました。すごくいい方法だと思いました。と同時に、撚りのかけかたによって同じ繊維が柔らかくも硬くもなることに驚きました。この知識は工場とのやり取りに非常に役立ちました。
amirisu: 商品をデザインしたり、さらに売ったりすることと、会社を経営するということは、またまったく別な話ですよね。大変なことを始めてしまったな、という感じでしたか?
Jared: 少しずつ今の状態になっていったんです。会社を作るなんて最初は考えていませんでした。毎回プロジェクトのようなかたちで進め、その中で自分が欲しいと思うものを作り、実現させてきました。SHELTERを発売するとき、まさかこんなに大きな反響を得るとは思っても見ませんでした。一度きりのプロジェクトだと思い込んでいたのです。アメリカ製の糸をある量作って売って、それで終わりというような。
編み手の人々の心に響く、なにかまったく新しいものを作り出したのだと気付いたとき、これを一歩先に進めてみようと決めました。2種類の糸を作ったことで、新たな興味が生まれてきました。自分たちの糸を使ったパターンのプロデュースです。パターンの開発に特に注力したこの1年半は、とても刺激的で楽しい日々でした。今では関わる人も増えてきたので、自分自身は一旦一息ついて、また糸の開発の方に関わろうかと考えています。それを考えるだけでとてもワクワクしてきますよ。将来、新しい商品を追加していくのを楽しみにしています。
amirisu: 新しい糸ですか?これを読んでいる皆がドキドキしてきたんじゃないでしょうか。
今後のプランについて言及がありましたが、これからやろうと思っていることや、将来の夢について差し支えなければ教えてもらえますか?
Jared: 商品ラインをこれからも増やして行きたいですね。太さや構造の違う糸を作りたいです。材料から生産まで全部国産、というのに強いこだわりがあります。もちろん、難しいチャレンジですが!我が国の紡績産業は、生産需要が非常に低くひん死の状態です。つまり、技術面やコスト面での柔軟性が低いんです。
でも、難しいからこそチャレンジ精神をかき立てられます。ニットウェアのデザインでも同じですよね。制約が多いほど、創造性を発揮することが求められる。常識を越えた発想をしなければならない状況が好きなんです。
amirisu: 最後に、ただの好奇心なのですが。仕事以外では何が好きですか?趣味の編み物もしますか?
Jared: もちろん、仕事以外でも編み物をしますよ!一時期、数ヶ月くらいかな、編み物が完全に仕事になってしまって、リラックス効果も楽しさも失われてしまったことがあって。その体験をしてからは、編み物ともっと健康的に付き合うことを覚えました。仕事とまったく関係のない糸で、他の人のデザインを編むようにしています。いつも仕事のデザインのことを考えてしまうので、頭の「休暇」が必要なのです。
それに加え、編み物以外の趣味もありますよ。料理やガーデニングはいつもやっていますね。
音楽も大好きです。いつも音楽を聴いているし、新しいアーティストやアルバムを発見するのが好きです。
それから時間が許す限り、カメラを片手に、独りで長い散歩に出かけます。街でも田舎でもどちらでもいいのですが、カメラを通して世界を見つめる「自分の時間」というのが、観察と内省のよい機会になります。
もうひとつ、2匹のフレンチブルドッグの世話をするのもお気に入りの趣味ですね!