6月 01, 2024

無限に広がるポップでカラフルな世界 
モール・アーティスト フジサキタクマ

無限に広がるポップでカラフルな世界 <br>モール・アーティスト フジサキタクマ
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 ▲カラフルでポップなモールだけで作られたモールエイリアンたち。

もしゃもしゃ、ふわふわ、もこもこ。

そんなオノマトペで表現したくなるのは、色とりどりの毛足に覆われた不思議なクリーチャーたち。デザイナーのフジサキタクマさんは、モールという素材一つでさまざまなキャラクターを作り、彼らが住む想像の世界を巧みな造形力で膨らませていきます。細い針金に糸繊維を絡ませた、手芸用モール。その可能性を「気づけば15年も追求している」と言うフジサキさん。ますます広がりを見せる魅力的な作品世界を覗かせていただきました。

  

子供の頃は勉強や運動よりは、工作や絵を描くことが好き。思春期になり、一旦は忘れていた自分の興味の方向性をフジサキさんが再確認したのは、大学に進学する時でした。「物を作ることを大学で学べるなんていいな」と思い選んだのが、地元新潟の長岡造形大学。入学後、一通りの技術を学んだのちに、たどり着いたのがグラフィックデザインとイラストレーションというフィールドでした。

しかし、卒業時にはご多分に漏れず、就職に迷う日々。教授からはイラストレーターの道を勧められたものの、当時はSNSのない時代。個人が作品を拡散させる術は限られていました。そこでフジサキさんは、東京のグラフィックデザインの会社に勤めながら、イラストレーションの制作を続けることを決めます。

昼間はデザインの仕事、夜中に帰宅してから朝までイラストを描くという過酷な日々。周りに目を転じれば、レベルの高い人たちに圧倒されるばかり。「自分はまだまだだと思い、立ち止まってしまいました」と当時を振り返ります。

イラストが嫌になったり、方向性が定まらなかったり。それでも何かを作る手が止まることはありませんでした。「やっぱり作ることが好きだったんです。一年ほど粘土で怪獣など造形物を作っていて、平面から立体へとフィールドを変えていきました」。  

▲インダストリアルクレイで作られるソフビの原型。モールのような突起まで再現する精巧な表現は、フジサキさんの確かな造形の技術を物語ります。

 

そんな転換期に出会ったのが、100円均一や文房具屋にある身近なモール。
「その時は何も考えていなかったけれど、色もたくさんあるし、面白い素材」だと思えたそう。モールをいじって造形していると、思いのほか周りの反響がよく、その頃参加したグループ展で「隠し玉」として出品したモールのオブジェも好評を得ます。

こうした模索が、原点であるイラストにも変化をもたらしました。それまで描いていたのは、初期のウルトラマンやカネゴンのような、昭和特有のダークな色合いの怪獣たち。その世界観も、カラフルでポップなモールと出会うことで、陽気なものへと変わったと言います。

イラストから立体作品へ。そして、モールで得た新たな感覚が再びイラストに落とし込まれ、違う表現を生み出す。点在していた自分の興味や強みが、その間を行き来することでつながり、フジサキさんの多面的な世界が構築されたのかもしれません。

 

 ▲GIZAMONSは風と炎を操るモンスター。
このようにキャラクターにはそれぞれに個性とストーリーがあります。
お気に入りを見つけるのも楽しいかも。

モールアートの世界で大きな位置を占めるのが、「モールエイリアン」たちと、そこから進化を遂げた「モールミュータント」たち。それぞれに名前や性格が与えられたキャラクターたちが、人類最後の都市や宇宙を舞台として壮大な物語を繰り広げます。ささやかな紹介文はあるものの、彼らの全貌が明かされることはありません。こうした断片的な紹介は意図的だそう。「例えば、このキャラがラスボスって言うと物語が決まってしまいます。決めないことで横の広がりが永遠に作れるんです。キャラを追加して、アナザーストーリーもサイドストーリーも作れる。見る人もフジサキさんはこの次どういうことを言い出すんだろう?って思うでしょう(笑)」。モールアートが花を飾るように置かれていけば、世界がもっと楽しくなるのではないかと願うフジサキさんの作品世界は広がるばかりです。

 

 ▲モールス・サーガ・ユニバースと呼ばれる、モールのキャラクターたち世界観。
こちらはエピソード2「スペースギャラクシーコズミックコミックス」からの一幕。
宇宙開発都市で展開する、あるかもしれない未来の物語です。

作品は糊や土台を使わずに、モールのみで作られます。大体のフォルムを作ったのちに、中に短いモールを詰めたり、織り込んだり。手のひらサイズを想像しがちなモール作品も、フジサキさんの手にかかれば30センチほどの高さにもなり、しっかと立つ存在感はなかなかのもの。一体につき1000本近くのモールを用いて、数日をかけて制作するそう。

とぼけた表情や手にしたガジェット。2頭身や3頭身のフォルムに、ポケットやベルトがついた衣装。各々のキャラクターには、フジサキさんのアンテナがこれまで感知してきたさまざまな創造のエッセンスが、パズルのように組み込まれています。「色々なもののニュアンスを抽出して、自分の作品に入れていきます。あの体験がよかった、あのキャラがいい。好きだと感じたものをちゃんと自分の手で形として作り出せるのが気持ちいいんです」。

 

 ▲モールエイリアンのソフビフィギュア。
ギャラクシーメタリック。

近年、海外での注目も高まるフジサキさん。今後はソフトビニールのフィギュア、ファッションアイテムや関連グッズも世界展開していく予定です。でも、やはり原点にあるのは、常に手を動かして造形していくこと。

「物を作ることは生きがいです。作ってないと心が安定しないというか(笑)。どんなに挫折しても手を止めることはしなかったし、どちらかと言うと職人なんですかね。僕はひたすら作っているだけでいいんです」。

 

フジサキタクマさんとモールアートの詳細については、ウェブサイトとインスタグラムから。

http://mogols-fuji.jp
https://www.instagram.com/mogols_tokyo/

 

個展
表参道 MAT @mat_new_space
東京都渋谷区神宮前5-49-5 RハウスB1F
6月22日-6月30日 13:00-19:00

 

写真提供:フジサキタクマ