1月 24, 2025

インタビュー:Adriana Torres
世界を旅する刺繍作家

インタビュー:Adriana Torres <br>世界を旅する刺繍作家

たくさんの種類のステッチを使った、繊細さと華やかさを兼ね空えた刺繍が特徴のアルゼンチン出身の刺繍作家、Adriana Torresさん。
今年2月、WALNUT Kyotoでボタニカルアルファベットの刺繍ワークショップを開催することになりました!
せっかくの機会ですので、彼女の作品やキャリアについて詳しくお話を伺いました。

 


── 元々はグラフィックデザイナーだったとお聞きしました。グラフィックデザインの表現手法として、刺繍やかぎ針といったテキスタイルアートを選んだ理由や経緯を教えてください。

8 歳のときから建築家になりたかったんです。建築に常に魅了されてきたし、実は今でもそうです。でも学位を取得するときに、建築に自分の人生をかけたり仕事にしたりするのは何か違うと気づき、グラフィックデザインを勉強し始めました。さらに、大学在学中、キャリ​​アのためのもう 1 つのツールとしてイラストレーションも学び始めました。そのときに刺繍が私の人生に入ってきました。2008年のことでした。水彩画やガッシュのほかに、刺繍を別の技法として使い始めたのです。

糸、絵の具、陶芸など、さまざまな手法を用いて作業するのは私にとってとても簡単なんです。建築学生としてこのスキルを学んだと思います。デザインのトレーニングになったし、さまざまな素材を駆使する能力が身につきました。


── その後、どのように刺繍が仕事になっていったのでしょうか。

学生時代に刺繍を始めた時は、刺繍が主な仕事になるなんて、ましてやクラスを持って人に教えることになるなんて想像もしませんでした!しかし、続けていくうちに世界中のさまざまな場所から招待してもらえるようになったんです。自分のブランド「Miga de Pan」でロンドンとパリの国際的なフェアにアルゼンチンを代表して参加しましたし、たくさん旅をしました。

コロナウイルスの隔離生活が始まるまでは、子供用の編みぐるみや毛布、ラグ、アクセサリーなどを作っていましたが、パンデミック後は刺繍と刺繍クラスで教えることに専念することになりました。

振り返って考えてみると、これは決して私の意識的な決断ではなく、自然な流れだったと思います。時間が経つにつれて、刺繍と同じくらい教えることも好きだと気がつき、旅をすることも私の情熱の一つだと知るようになりました。新しい文化に触れて、新しいつながりを作る旅は、私の刺繍を豊かにしてくれます。教えることで、同じ趣味や人生観を持つとても興味深い人々とつながることができ、ますます多くのことを学びます。

旅を終えてブエノスアイレスに戻ると、圧倒されてしまうほどインスピレーションがどっと沸くんですよ。

幼い頃、世界を旅できる仕事に就くことも夢見ていました。子供の頃からの夢を叶えることができてとても幸運に思います。


── あなたの作品の特徴について教えてください。

私の作品は繊細だと思います。なぜなら、細やかなステッチと淡い色合いで刺すのが好きだから。(最近はかなり濃い色も使うようになりましたが。)私は技術に関してはかなりの完璧主義者ですが、刺繍するときはできるだけ流れに身を任せるようにして、完璧主義にならないよう意識して気をつけています。技術をきちんと保ちつつ、フレッシュで自然な刺繍が好きなんです。

立体刺繍とテクスチャの多様性も特徴ですが、これについては、私の絶え間ない探究心と実験の繰り返しが関係しているように感じます。いつも同じステッチを使うと飽きるというのもありますが、何より、テクスチャとコントラストに魅了されていることが、私をこの探究に駆り立てているのだと思います。私の作品を定義する言葉があるとすれば、それは”コントラスト”。テクスチャのコントラスト、幾何学模様と自然の造形のコントラスト、ナチュラルカラーと蛍光色のコントラストなど、ほんの一部を挙げるだけでも十分です。

このスタイルも、私が意図して作り出したのではなく、制作中に自然に現れたものです。振り返って自分の作品全てを眺めてみると、それらを統合する美があることに気づきます。私のスタイルは一目瞭然だと言われることもあります。その理由はよく分かりませんが、私が常に本物だったということに関係があるのではないでしょうか。インスピレーションは私自身の経験、見聞きしたもの、そして私の内面の世界から来ているので。


── 具体的に、どのような経験やモチーフからインスピレーションを得ますか?

植物、花、動物といった自然が主なインスピレーション源です。しかし、何でも私の想像力を刺激することができます!

例えば、昨年デンマークを訪れたときに、私にとってはとても奇妙に見える色の組み合わせのバスを見たんです。ライトブルーベージュと、蛍光イエローのバスでした。私は急いでその色の糸を買いに行き、その組み合わせでセーターチェアを刺繍しました。あのバスを見ていなかったら、絶対にその色を組み合わせることはなかったと思います。



── セーターチェアはあなたのアイコンですね。私たちニッターにとってはたまらない、大好きな作品シリーズです!どうやって生まれたんでしょうか。

最初のセーターチェアは、イラストレーションの授業で生まれました。建築学生の頃から椅子が大好きだったんです。バウハウスと、バウハウスから生まれた全ての作品のファンで、好きなアーティストにはヘリット・リートフェルトとマルセル・ブロイヤーがいました。彼らの椅子のデザインに魅了されていたので、イラストレーションの授業の演習で日常的なものを組み合わせる必要があったとき、椅子とセーターを選びました。それ以降、何年もこのデザインを描いたり、刺繍したりし続けていますが、なぜか飽きません。まるで、すでに私の一部になっているみたいで。コロナで隔離生活を余儀なくされた頃に、セーターチェアのデザインはキャラクターになり、「 ¡Gatagoto!」と名付けました。そのとき、Spotifyで細野晴臣の「Choo choo Gatagoto」聴いていて、はっきり理由は分かりませんが、これがキャラクターの名前だ!と直感したんです。

実は2月に初めての個展を日本で開催します。会場は手紙舎アートギャラリーで、2月19日から3月1日まで。タイトルはおそらく「ガタゴト(¡Gatagoto!)」です!日本で開催できるなんて夢にも思わず、とても光栄です。

個展の詳細はこちら→ https://tegamisha.com/news/news-tag-2502/

 

 

── ちなみに、刺繍作品を日常生活でどのように使いますか?ニッターは、セーターであれば着ればいいので悩みませんが、、、壁掛けにしたり、ハンカチにしたり、おすすめの方法はありますか?

私の場合、刺繍を壁掛け作品として販売しているので、どうするか心配する必要はありません。それから、自分の服にも刺繍したいと思っていますが、今のところあまり時間がなくてできていません。子供の頃、母が私と兄弟のズボンに刺繍してくれたのを覚えていますが、とても素晴らしく、美しくてユニークで、値段のつけられないようなものに思えました。旅行が減って自分の時間が増えたら、自分の服に刺繍したいです。


── そのほか、新しく挑戦したいことはありますか?

今は新たなレベルの刺繍に挑戦中です。まだ何もお見せできませんが、楽しみにしていてください。また、数年前にジュエリーの勉強をしていたのですが、旅が忙しくてしばらく中断しています。いつか必ず再開したいです。新しい取り組みのすべてが作品にフィードバックされると思うので、常に挑戦を続けたいです。インスピレーションの往復ですね。


── これから刺繍を始める人、ワークショップに参加する人にメッセージをお願いします!

いつも生徒や刺繍を始めたばかりの人に、忍耐強くあること、技術をよく練習すること、そして完璧主義にならないことを伝えています。手刺繍の素晴らしいところは、完璧である必要がないことだから!例えば、あまりにも上手にできた刺繍を見て、それが機械によるものか人の手によるものか分からないとしたら?私は、興奮しません。「間違い」を見るのが大好きですが、それは私にとっては間違いではなく、刺繍した人の手の痕跡です。

練習はリズムを身につけるために重要で、リズムは完成した刺繍を見たときに分かると信じています。そのリズムを見るのが好きなんです。そして、刺繍をした人が楽しんでいた場合、それを完成したステッチのリズムから読み取ることもできます。それが刺繍を本物にします。本物であることを通して、感情が伝わるのだと思います。


Adriana Torres 
Instagram: @soymigadepan