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韓国ではアーティストとの嬉しい出会いがありました。一人目は、チョ・ジニョン。
私たちのトランクショーに来てくださった、凛とした空気をまとったおしゃれな彼女。お話してみると、owllama studioの名のもとニットやかぎ針のデザインを手掛けているデザイナーでした。彼女の作品は多くの色を使いつつもまとまりがあり、見ていると心がすっと落ち着いていくように感じます。
そこから縁がつながり、amirisuとコラボレーションすることになりました。彼女のデザインを近々リリース予定ですので楽しみにしていてくださいね。
日本との関わりと編み物の始まり
ジニョンの人生は、実は日本と深い繋がりがあるのだとか。時は彼女が生まれる前に遡ります。
1963年から3~4年の間、父親の仕事の関係でジニョンの家族は大阪に住んでいたのです。母親はその機会に日本語を学んで近所の日本人と仲良くなり、編み物や生け花、裁縫を学びました。ジニョンの兄弟たちの子育ても忙しかったはずですが、うまく学びを両立させ、最終的には編み物講師の資格を取得し、小さな編み物教室を開くまでになっていました。
韓国に戻ってジニョンが生まれた後も母親は編み物を続けたので、ジニョンはクリエイティブな環境に囲まれて、母親のクラフトへの情熱を自然と吸収しながら育ちました。しかし、勉強の邪魔になることを恐れたのでしょうか。母親が彼女に編み物を直接教えてくれたことはなかったといいます。それでも12歳の時、知人の勧めで初めて編み針と毛糸を手にし、編み物に魅了されるように。「その時から、編み物は私の生涯の趣味になったんです。振り返ってみると、私が生まれるより前の母の手の中に、すでに私の今の仕事のルーツがあったように感じます」。
当時、韓国語の編み物本は今ほど普及しておらず、ジニョンは日本の編み物本を集めて学びました。本の内容を理解したくて、大学では第二言語に日本語を選んだそう。卒業後はファッションの専門学校へ入学し、その後、カジュアルなファッションブランドのデザイナーやマーチャンダイザーとしてキャリアを積んできました。
しかし最終的には、ファッションの仕事を辞め、趣味として続けていた編み物に没頭する道を選択。2000年代半ばに、数人のアーティスト仲間と共にアトリエを立ち上げ、ニット小物を販売したり、編み物レッスンを開催したり、雑誌のインテリアページをニットの装飾品でスタイリングしたりし始めました。
同時に、独学では学びきれない基礎を固めようと、日本手芸普及協会の資格取得講座を受講。棒針とかぎ針の両方を修了し、インストラクターレベルも取得しました。こうして得たパターンやテクニックについての深い学びと、自ら手を動かしてきた経験を結びつけて、独自のスタイルでさまざまなプロジェクトを生み出すようになりました。2020年には60年の歴史を持つ韓国を代表する毛糸メーカーNakyang Yarnとコラボレーションし、一年を通じて13のニットやかぎ針の作品をデザイン。長年思い描いていたアイデアが実現し、デザインの仕事が軌道に乗るきっかけとなりました。
韓国の編み物文化
近年、韓国の編み物産業と教育システムは大きく発展し、誰でも編み物を学べるようになり、ジニョンが編み物を始めた頃とは大きく環境が変わったといいます。
「韓国の編み物文化は日本の影響を大きく受けているので類似点がある一方、相違点もあります。長い歴史を持つ日本は、何度も激動の時代を潜り抜けてきた中で伝統を維持しようという強い意志があるように感じます。一方、韓国では編み物は若者世代に浸透し、実用性とトレンドを取り入れながら進化しています」とジニョンは話します。
「ワークショップや共同の展示会や出版を通じて、韓国と日本のデザイナーやニッターの交流がより一層活発になったらいいなと思います。クラシックとモダンが混ざった、ユニークな新しい世界が開けそうです」。
Densely and Loosely
これは2024年にジニョンが初めて開いた個展のタイトルであり、彼女の作品の本質を表す言葉でもあるといいます。濃密でありながらも緩やかに、いろいろなものを作品に編み込んでいくこと。作品は、彼女の過去と未来の反映であり、人生を写す鏡であり、表現のための言語にもなります。布や金属、ビーズ、フェルトなどさまざまな素材を編み物と組み合わせたり、大胆な色を取り合わせたり、トレンドを追いつつ時代を超えるクラシックも大切にしたり。そうやってさまざまなものを作品に織り込むことでストーリーを紡ぎ、日常から抜け出していきます。
他の分野のアーティストとのコラボレーションにも積極的で、例えば金属工芸作家のSonneteとは”Eternal Bloom”や”Moonlight Chaconne”といったテーマのもとオブジェを作り、冷たい金属と柔らかな繊維を融合させました。
彼女のインスタグラムには、編み物だけではなくスケッチや刺繍、自然の風景、植物とコーヒーのある暮らしのスナップなどが並びます。その作品や手法の多様さに驚かされるとともに、背景に流れる穏やかな時間を感じます。
「編み物そのものがそうであるように、手間のかかる工芸に惹かれるんです。鉛筆で紙に書いたり、スケッチしたり、コンピューターでは再現できない有機的なテクスチャを作るのが好きです。特別なフレーズを残しておきたいときは、メモする代わりに、その時の感情を一針一針に込めながら刺繍することもあるんですよ」
彼女の心に安らぎとインスピレーションをもたらしてくれるものはさまざま。花や鳥、散歩で見かける風景だったり、本や音楽、コーヒーだったり。はたまた、他のアーティストやデザイナーに刺激されることもあります。例えば、絶えず実験を重ねて芸術の可能性を押し広げてきた彫刻家でありインスタレーションアーティストのルイーズ・ブルジョワ。「彼女が繰り返し取り上げる家族や母性といったテーマには深く共感できるし、メディアの使い方の多様さにはただただ驚かされるばかりです」とジニョンは言います。
このように、優しくしなやかにさまざまなものを受け入れ、組み合わせ、広げていくところが彼女の作品、そして彼女自身の魅力なのでしょう。
デザインの始まりと終わり
そのため、デザインのプロセスに決まったルールがあるわけではないそう。例えば、食べ物の色や質感からインスピレーションを得てスワッチに落とし込んだり、懐かしい記憶を掘り起こしてシルエットをスケッチしたり。素材を観察し、色の組み合わせを試してみることでデザインが生まれることもあります。
しかし、中でもスケッチは、デザインプロセスに欠かせないもの。「まるで道路の標識や信号みたいに、スケッチは私にとっての目印です。上手い下手は関係なく、描くという行為によって感情を紙の上に直接変換できているような気がします。私の作品は完成までに長い時間がかかりますが、手の中で時間をかければかけるほど、仕上がりは満足いくものになると信じています」。
また、作品を仕上げた後にも作業は続きます。日記のように、思考と感情をコラージュしながらデザインの過程を文章に残すのだそう。テキストは完成作品とは別の形のアウトプットとして残り、未来の仕事への架け橋になることも。クリエイティブな旅の始まりと終わりはいつもはっきりしないものの、継続することと、終わった後に残った印象を大切にしています。
これから
今後は、さまざまな素材を融合させてニットの領域をさらに広げるべく、ニットやかぎ針のウェアのデザインと並行して、工芸系の展示会に取り組んでいきたいそうです。ブランドとのパートナーシップにも興味が高まっているとか。
そして何より「自分のアイデンティティを貫きながら、作品を通して自分自身を表現し続けることが究極の目標です」とジニョン。彼女のデザインの旅はまだまだ続きます。
owllama studio オンラインショップhttps://smartstore.naver.com/owllamaチョ・ジニョン Instagramhttps://www.instagram.com/cho__jinhyun/