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かつて50社以上がひしめいたニットメーカーの町、山形県山辺町で1952年に創業した米富繊維。元々はOEMメーカーとしてスタートしましたが、3代目の大江健代表取締役社長は「作り手と買い手の距離を縮める」をモットーに、ファクトリーブランド展開へと舵を切りました。ニットらしくない個性的なテキスタイルのアイテムが揃う「COOHEM(コーヘン)」、創業以来培ってきた技術を活かしながら新たな価値を提案する「THISISASWEATER.」、ベーシックな佇まいながら気の利いたデザインで日常の装いを展開する「Yonetomi」、現在ではテイストの異なる3つのブランドを展開しています。
「まさか地元に戻って会社を継ぐとは思ってもいませんでした」
そう語る大江さんが実家に戻る決意をしたのは、東京でアパレル販売職を経て、自身のキャリアと日本の繊維産業の未来に疑問を抱いたことがきっかけでした。大学進学のために山形から東京に上京し、ファッションが好きでアパレルの専門学校にも通った大江さん。1990年代、大江さんが勤めていた東京のセレクトショップでは、何もしなくても飛ぶように服が売れていたといいます。一方の米富繊維は、海外で安く生産された服が入ってきたことで受注が減り、会社の規模を縮小せざるを得ない状況でした。
「どちらも同じファッション業界なのに、この差はなんだろう」。
同時に、技術力とセンスを活かし世界で勝負しているイタリアのファクトリーブランドも念頭に浮かびました。なぜ日本ではできないのか?そう考え始めていた矢先、「ブランドを作って自社で売らないと、日本のニット業界は厳しくなる」との2代目社長の父の言葉に背中を押され、会社がなくなってしまう前に挑戦することを決意。30歳で米富繊維に入社し、ブランド立ち上げを視野に工場での実務や営業、技術研修を経て、会社の構造的な課題に向き合いました。
経営やブランド立ち上げの難しさを改めて実感する一方で、大江さんが強く感じたのは自社の技術の高さ。その技術の基盤となっているのが、約40年前に創設された編み地開発部門でした。OEMで依頼されたものをただ作るのではなく、糸と編み組織の組み合わせを研究し、オリジナルのテキスタイルを生み出してきた強みがあり、今では2万点以上の編み地が蓄積されています。
一般的には柔らかく軽く作ることが多いカシミヤですが、あえて強く撚りをかけてミドルゲージで編んだリジットカシミヤなど、新しい編み地開発を積極的に行っています。「最初はスウェットのような手触りですが、デニムのように使って洗って育てていくと、カシミヤらしい柔らかな手触りになるんです。長く着てもらえると思います」
編み機がずらりと並ぶ工場の様子。
現在、工場では約40台の編み機が24時間稼働しており、そのうち20台はローゲージの機械。一般的には年間を通して受注を取りやすいハイゲージ製品が主流ですが、米富繊維がローゲージにこだわるのは手紡ぎのニットにルーツがあり、やはり寒い山形だからこそ。
ローゲージの編み機で編まれた、ファンシーヤーンの編み地。
セーターの襟や袖など、パーツを繋ぎ合わせるリンキングの過程。丁寧で緻密な手作業が求められます。
そうして2010年、ついにファクトリーブランド「COOHEM」を立ち上げます。テーマは”This is not a sweater”。ニットメーカーの技術で、Gジャンやライダースといったニットらしくないアイテムを生み出すという挑戦で、ブランド名は交編技術に由来し、多彩な編み組織やファンシーヤーンを組み合わせて独自の表現を試しました。展示会に出してみると、大手アパレル企業と取引できることになり「社内のみんなもびっくりしていました」と微笑みます。
最初は大江さんがデザインから営業販売まで全て一人で行っていましたが、次第にブランドに携わるスタッフも増え、現在はよりベーシックな「THISISASWEATER.」「Yonetomi」など複数ブランドを展開しています。
「セーターとは何か?」を突き詰めて考える、2番目のブランド「THISISASWEATER」。一つ一つに物語のあるセーターです。
海外に進出したり、オンラインショップを作って直接販売を始めたり。ブランドの立ち上げ以降大きな通過点はいくつもありましたが、その中でも特に大きな変化は、工場に併設した直営店「ヨネトミストア」を開いたことでした。
きっかけはコロナ禍。全国的にアパレル店舗も営業休止を強いられ、服も売れず、工場で作るものがないという初めての状況に陥ったといいます。「誰もオーダーを入れてくれないなら、自分で入れるしかない」。そう考え、工場に余っていた残糸をかき集め、ベーシックで使いやすいセーターを700枚ほど生産。山形県内でポップアップをしたり、必死で売り上げをつくりました。ブランド「Yonetomi」が立ち上がったのもこの時でした。
山形中を回る中で気がついたのは、山形にもチャンスがあるということ。インスタグラム等で集客したポップアップには想像以上の人が集まり、山形で店を開くことの意味を実感しました。
そうして2020年、本社の正面玄関のスペースをお店に作り替え、初めての直営店をオープンしました。
ヨネトミストア外観
特徴的なのは、社内の皆がシフト制で販売スタッフを担当していること。若いスタッフだけでなく、大江社長や年配の管理職も店に立ちます。「せっかくの工場併設店舗なのに、東京と同じように若い販売専門のスタッフが立っているのは何か違うなと。作り手ならではの話ができるのがいいし、2年間やってみて、みんなに他人ごとが自分ごとになっていく変化が生まれたのを感じます」と振り返ります。
「今、ニットの国内生産比率はたったの0.6%。新聞に絶滅危惧種と書かれることもありますが、必要なのは続けていくことと伝えていくこと。入社時に思っていたのは、ブランドはただの手段であって、目的は作る現場と買うお客さんの距離を縮めたいということ。それが実現しつつあるのは面白いです。」
amirisuチームも買い物に夢中になりました。
毎月第3土曜には工場見学を開催しています。(事前予約制)https://www.yonetomistore.jp/news/5
セーターができあがるまでの丁寧な仕事ぶりにふれると、きっと一着への想いも変わるはず。工場見学の余韻を楽しみながら、ヨネトミストアでのショッピングもぜひ。
アクセス
〒990-0301 山形県東村山郡山辺町山辺1136023-664-8165
米富繊維 Website: https://www.yonetomi.co.jp/Instagram: https://www.instagram.com/yonetomiseni/
ヨネトミストア Website: https://www.yonetomistore.jp/Instagram: https://www.instagram.com/yonetomistore/