6月 06, 2025

山形で出会った、かわいく不思議な張り子の世界 
ArtDaifuku

山形で出会った、かわいく不思議な張り子の世界 <br>ArtDaifuku

 

とげとげの歯がびっしり生えていたり、目や足がたくさんあったり。

絵本のページから飛び出してきたような愛らしくちょっぴり不思議な生き物たちは、ArtDaifuku・ユメノさんの張り子の作品。どこか気の抜けた表情もかわいく、見ていると思わず笑顔になってしまいます。山形市内のカフェanoriで初めて彼女の作品を見かけ、一目惚れしてしまった私たち。ユメノさんにお話を伺いました。

 

張り子は、竹や木、粘土で作った型に和紙を何層にも張り重ね、型を取り出すことで造形する技術のこと。

張り子と聞くと伝統工芸品を思い浮かべますが、ユメノさんの作品はあくまでアート。伝統的な張り子の枠を超え、作品を自由に気軽に楽しんでもらい、福が広がってほしいとの気持ちを込めて「ArtDaifuku」と名乗っています。

張り子の技術だけだと複雑な形を作るのは難しいですが、細い足やトゲトゲの歯などは、和紙を捻って細くしたものをつけたり、竹を刺したり。ファーなど、全く異なる素材を使うこともあります。

 


耳に毛糸を巻いています。

 

なんと、全て独学で学んだというので驚きです。元々は、ものづくりとは関係のない美容系のメーカーで勤務していましたが、夫の転勤を機に10年ほど前に山形に移住しました。

その頃に、こけし工人・梅木直美さんのこけしアクセサリーをプロデュース。そのアクセサリーを入れる箱を張り子の要領で作ってみたことが作家になったきっかけでした。東京のショップのオーナーが箱を気に入って「 形がユニークで面白いからミニ個展をしてみない?と言ってくださったんです」とユメノさん。すぐに小さな個展を開くことが決まり、柄が全て異なる作品を100個以上も制作しました。そこからファンを増やしながら、今まで活動を続けています。


人と話をして幸せな気持ちになったり、文字を読んで頭の中にイメージを浮かべたりすると、それが作品のインスピレーションになっていきます。頭の中には次々とアイデアが浮かび、それを直感的にどんどん形にしていくためか、作品の数が膨大になることもしばしば。

 

小さなモールの作品たち。その数、なんと1000個!

 

作っているのは張り子だけではありません。絵を描いたり版画をしたり、モールの人形を作ったり、張り子を作っている最中でも違うものがやりたいと思ったらすぐに始めてしまうそう。「作品を期日内に納めるのは苦手です。でも、作りたいものを作りたいときに作っているので、とてもヘルシーです」と微笑みます。

 


「うさぎの福助」に目をいれているところ。細かな作業です。

 

「どんな年齢の人でも、何かをしたいと思ったら諦めないでチャレンジしてほしくて、私の作品がそのきっかけになったらいいなと思います」と話すユメノさん。そのために、あえて上手すぎないデザインを心がけています。子供からお年寄りまで誰が見ても楽しめるデザインであることも大事。そのため、性的な表現や過激な表現はしません。「奇抜な色や見た目にびっくりしてしまうけど、よく見ると優しくてかわいい感じ。ウケ狙いじゃなくて、10年後にふと見たときにも、じわじわと『あれ?かわいいかもしれない』と思ってもらいたいんです」。

とにかく作品の種類が多く定番が作れないといいますが、どの作品も見れば見るほど愛着が増してくるデザインばかり。一期一会で、自分のお気に入りとの出会いを楽しめそうです。


山形漆器の本家長門屋とのコラボ作品。張り子に漆を塗っています。

 

東京で個展をすることもありますが、ユメノさんの作品は、主に山形県内のカフェで展示販売中。

「山形はゆったりしていて生活しやすく、制作するのにも苦しくない場所。つかず離れずのいい感じの距離感を作ってくれる県だなあと思って、好きです」とユメノさん。

さくらんぼや、漢字の山の形をしたものなど、山形らしいモチーフの作品は周りの人たちへの感謝の気持ちから作っています。説明なく置いてあっても、お土産やプレゼントとして売りやすいのが良いところ。「作品を置いてくれて、支えてくれる皆さんのおかげで続けられています」。

山形の月山和紙を使った作品シリーズもあります。色のついた和紙を仕入れ、上から色を塗ることなく和紙そのものの良さを際立たせます。普段の作品とは一味違った落ち着いた色味ですが「和紙の風合いが優しくて、職人さんの素晴らしい仕事に手を加えたくないと思いました」と話します。

 



月山和紙を使った壁掛け。仕入れた紙の色のまま、着色していません。

 

これから挑戦したいのは絵本づくり。仕事や家事で忙しいお父さん、お母さんたちの代わりに子供たちに読み聞かせをするような気持ちで、自作の絵と物語をYoutubeやPodcastで配信してみたいといい、アイデアを聞いているだけでワクワクしてきます。どんな世界が生み出されるのかとても楽しみです。

 

てんぐちゃんのイラスト。毛糸玉もいますね!

 

プロフィール

ArtDaifuku(アートダイフク)ユメノ

1979年、栃木県生まれ。東京で美容関連の仕事に従事した後、結婚を機に山形県に移住。
こけし工人・梅木直美氏とのコラボレーションでアクセサリー制作に携わり、その中で販売用のこけしケースを手がけたことがきっかけとなり、2017年から本格的に張り子作家としての活動を始める。
張り子をはじめ、絵、版画、陶芸などさまざまな技法を取り入れ、絵本や絵画の世界から飛び出してきたかのような立体的な作品を制作。温かみとユニークさを融合させ、独自の表現を追求している。
これまでの主な個展に、2023年12月に新宿眼科画廊で開催した「コンニチハリコ ArtDaifuku個展」、2024年10月にTHE LOCAL TUAD ART GALLERYでの「コンニチハリコ ArtDaifuku個展」があり、2025年12月には新宿眼科画廊にて再度個展を予定している。

 

Instagram: @artdaifuku
Website: https://www.artdaifuku.com/