4月 15, 2025

韓国のアーティスト紹介
Knits pour moi

韓国のアーティスト紹介<br>Knits pour moi

ソウルで出会ったアーティスト、3人目はKnits pour moiのキム・スミン。

出会ったのは、彼女本人ではなく彼女の著書「Knits pour moi」。毛糸ショップや街の書店で平積みされており、一際目を引いた美しい装丁の本です。韓国語で出版されたモダンな編み物本として、韓国の若いニッターに熱烈に愛されている様子でした。

著者のスミンはパリで活躍する韓国人デザイナー。彼女に作品作りについてお話を伺いました。



 

「Knits pour moi」はスミンの最初のパターンブックのタイトルであると同時に、彼女が夫のイ・コングクと始めたデザイナーユニットの名前でもあります。英語のknitsとフランス語のpour moi を組み合わせた「私のための編み物」という意味。しかし、そこには単に自分のために編むという以上の、「自身のために選び、作るプロセス」という意味が込められているそうです。

 

Christstollen Cardiganを着用したSoumine


 

夫が建築を学んでいたことから、スミンは2015年にフランスのパリに移り住みました。新しい場所に適応するのは簡単ではありませんでしたが、パリの建築とアートに多くの刺激を受けました。しかし、それ以上に彼女の目を引いたのは、街で見かけるユニークで多様なファッション。スミンとコングクはパリの街を歩きながら、ファッションやアート、建築についてたくさん話をし、その経験をデザインに活かしています。


Knits pour moiのパターンは、二人のチームワークで生まれます。スミンは編み物をベースにアイデアを出し、コングクがそのアイデアをスケッチしデザインのアドバイスをしてくれるそう。二人は同じアイデアについてそれぞれのやり方でアプローチし、お互いその結果が気に入ったらパターンが完成します。

最初は、スミンは建築のアイデアをデザインに適用するのを奇妙に感じ、コングクにとって編み物を理解するのは難しかったといいますが、しばらく一緒に仕事をするうちに、お互いの考え方が分かるようになっていきました。二人の目標は、シンプルかつ、優れた構造と特徴を備えたパターンを作ること。「このアプローチは、日本でよく見られるミニマリストのデザインスタイルに似ていると思います」。


編み物と建築を組み合わせるとは、どういうことなのでしょうか。


「編み物の美しさは、さまざまなステッチが組み合わさって全体を形成するプロセスにあると思います」とスミン。「意図どおりに完璧にフィットすることもあるし、そうでない場合でも新しい発見の喜びがあります」。

一方、建築の美しさも同様に、さまざまな素材や要素が建築家の意図に従って構築されるプロセスで見えてくるもの。

たとえば、レンガを積み重ねるとき、すべてのレンガを同じように配置することもできるけれど、壁に特徴を与えるために特定のバリエーションを導入することもできる。このように編み物と建築は、個々の要素がデザイナーの意図に従って調和し、構成されるという点で、同様の美的原理を共有しているのではないかー。


これはまさに建築の概念を編み物に適用できる点であり、二人のデザインは全てこの概念を反映しているそう。例えばCaméliaパターンは、似ているように見えて微妙に異なる模様が繰り返されており、それが服に個性を与えています。よく見ると、花の形にはいくつものバリエーションがあり、風や時間の経過によって変化する花の動きを表現しているのです。このコンセプトは、現代の建築家が「動く建築」を探求してきた様々なアプローチとつながっています。


Camélia Cardiganを着用したSoumine。花の形はさまざま。


スミンにとって編み物とは、複雑な日常から抜け出して自分だけの時間を持つ手段だといいます。

編み物はシンプルだったり複雑だったりします。頭がいっぱいの時には複雑なパターンに集中することで逆に頭をすっきりさせ、簡単なパターンはリラックスして周りの人とおしゃべりすることもできます。そして何より、忙しい子育ての中でエネルギーを補給する大切な方法でもあります。外国での子育ては簡単ではありません。何か困ったことがあっても家族や親しい友人の助けを借りず、スミンは夫と二人で全てを解決しなければいけませんでした。しかし、夫が子供を見てくれている時間は、自分のことに集中して編み物をすることができ、複雑な考えを手放して自分のリズムを見つけることができたのです。

 

Laurier Summer Top

 

最初のパターンブックは、日頃からKnits pour moiのパターンを愛してくれているニッターへの感謝の気持ちを込めて作ったもの。二人は韓国人なので、初めての本を韓国語で出版するのはごく自然な流れでした。デジタルだけではなく、長く保管できる物としての本を作りたかったといい、韓国のニッターが喜んでくれたことは二人にとって大変うれしいことでした。

これからも、いろいろなコラボレーションを通して編み物の楽しさを多くの人と共有したいというスミン。他の言語での本の出版を目指すほか、デジタルパターンの日本語翻訳も進めているそうです。

「日本のニッターにパターンをお届けできることを楽しみにしています。このインタビューによって、日本の編み物コミュニティとのつながりがさらに広がることを願います」。

彼女のこれからの活躍と、日本語で彼女のパターンが編めることが楽しみでなりません。

 

Website
https://www.knitspourmoi.com/

Instagram
https://www.instagram.com/knits.pourmoi

Youtube
https://youtube.com/@knits.pourmoi