11月 01, 2019

The Story of a Creative Life: bookhou - Issue 17

amirisu featured @bookhou
amirisu featured @bookhou

シルクスクリーンで幾何学模様がプリントされたバッグやポーチが、世界中の編み物ファンの間で定番アイテムとなっているbookhou(ブックフー)。最近ではパンチニードルの動画がブレイク、余り布を利用した小さなパッチワークの作品や、そして自身がデザインを手がけたファブリックなども登場し、大人気となっています。ジャンルを超えて活躍する彼らの作品は、様々なテキスタイルアーティストにも影響を与えています。

bookhouはトロントを拠点に活動する夫婦のユニット(名前は2人の名字BoothKhounnorajを繋げたもの)です。広々したアトリエ兼ショップには、バックグラウンドの異なる2人のコラボレーションから生まれたアイテムが様々並びます。今年の初めbookhou2人が家族で日本を訪れた際に、amirisuの運営する毛糸ショップWALNUT両店でArounna(アロウナ)がパンチニードルのワークショップを行なってくれました。その1週間、アロウナの家族とも少し時間を過ごす機会がありました。「つくる」という活動がいつも家族とともにある様子を見て、彼らが日々をどんな風に過ごしているのか、とても興味が湧きました。その様子を解き明かすべく、

アロウナにインタビューしました。

 

amirisu: 最初に伺いたいのは、bookhouを始める前のことです。アロウナはアートスクールに行ったのですか?

アロウナ: 実は3つのアートスクール(美術大学)に通って、美術の修士号も持っています。大学時代ははじめ、採集した自然素材や粘土などで立体作品(彫刻)を作っていました。今とはだいぶ異なるジャンルなのですが、指先で創り出す感覚や、素材の特徴を良く知ることなど、共通している部分もあるんです。時には、素材を彫刻に縫い付けたりもしていましたしね。卒業後はトロントにあるハーバーフロント·クラフト·スタジオのテキスタイル部門で研究生をするプログラムに応募してみないかと誘ってもらいました。それまであまりテキスタイルを素材として使ってこなかったのですが、この研究生時代に布地にスクリーンプリントを施したり、テキスタイル全般を使った作品作りに移行しました。

amirisu: 修士まで取った立体作品をやめるほど、スクリーンプリンティングの何が魅力的だったのですか?

アロウナ: どんな素材にも瞬時に好きなイメージを写し取ることができるという即時性に、とても惹かれました。でも彫刻を完全にやめたという訳ではないんです。ただ、表現の手法が少し変わったというだけでね。思考プロセスはいまだに彫刻的なのではないかしら。

amirisu: bookhouは旦那様と2人で初めたユニットですよね。どんなふうにしてスタートしたのですか?

アロウナ: ジョンとはオンタリオ美術館の学校で働いているときに出会いました。 当時彼は画家と建築家で、家具を制作しようと試みていました。アーティストとしての彼、そしてそのものの捉えかたをとても尊敬しています。2人のアートやクラフトのバックグランドを活かし、2人の興味関心の重なるところにある、かつ実用的で飾り気の少ないプロダクトを作っていきたいと思っています。

amirisu: 典型的な1日はどんな様子ですか?朝はどのように過ごしていますか。

アロウナ: 職住一体なので、通勤時間といえばほんの一瞬なんです。たいていは忙しいですが、仕事内容にはかなり幅があります。スタジオの一部を店舗として一般に解放していますが、注文のほとんどはオンラインから。まず店頭の品出しをしてオープンさせてから、オンラインの注文を確認して何を制作しなければいけないかを決めます。少し在庫しておきたいものもあるし、卸やクラフトショーなどにも出店しています。そのあとは色々で、布をカットしたり、プリントしたり、縫ったり。他にもやることは沢山あります。ほとんどの日には縫い子をやってくれている母や、アシスタントにも手伝ってもらっています。一連の制作活動の隙間に、絵を描いたり、刺繍をしたり、パンチニードルをしたりという、もっと楽しみの要素の強い活動を差し込んでいます。

amirisu: パンチニードルといえば、インスタグラムに乗せたパンチニードルの作品が口コミで広がって、とても世界が広がったように見受けられます。やってみようと思ったきっかけや魅力は何ですか?

アロウナ: いつも新しい表現方法や新しい商品のアイデアを探しているんです。あるとき友人と、私のデザインしたラグが作れたら素敵ね、という話をしていたところ、彼女がニューヨーク旅行のお土産として、Amy Oxford社のパンチニードルを買ってきてくれました。「これでラグを作ってみて」ってね。メーカーのホームページでチュートリアルビデオを観て学び、使ってみたらすぐに虜になりました!すっかりハマって毎日作品を作るようになり、今までになかった表現手法が生まれました。私にとって何が魅力なのかといえば、いつもやっている他の作品作りと比べてもっと行き当たりばったりで良くて、すぐに出来上がるところかしら。まるで毛糸でお絵かきをしているように、自由に表現ができます。

amirisu: パンチニードルの作品が有名になって、何か変わりましたか?日々の生活にも影響が?

アロウナ: 商品の制作ですでに十分に忙しい生活を送っていたのが、もっと忙しくなりました(笑)。と同時に、パンチニードルの作品作りによって、色にたいする恐怖心が薄れた気がします。また、他の作品よりも完成までに時間がかかるので、今まで以上にうまく時間をやりくりするようになりました。

amirisu: 一日の仕事時間を聞いたら、本当にありえない働きかたでしたけど(毎日夜中まで)!それなのに、仕事ぶりにはなんだか余裕が感じられます。遊び心まである。普段仕事をするうえで、この部分が気に入っているといったことはありますか?

アロウナ: 自分の仕事の好きな部分といえば色々あります。中でもとりわけ嬉しいのは、人生これまで生きてくると、自分の様々な興味を最大限に実現できる道具や資金、経験が十分にあるということ。朝起きて何かを思い付いたら、午後にはプロトタイプを完成させられる。集中して制作活動に当たり、色々と模索する余裕があるということにとても感謝しています。とはいえ、毎日この両手でものを作リながら、同時に家族と時間を過ごすことができるというのが、自分の仕事の一番素晴らしい部分だと思っています。

amirisu: ご両親もものづくりが好きでしたか?子供時代の話を聞かせてください。

アロウナ: 両親ともにいつも何か作っていましたが、それは必要性からでした。私の家族はベトナム戦争の影響でラオスを追われ、タイの難民キャンプでしばらく過ごしたあと、カナダに移住しました。父は家族が使う家具を作り、母は私たちの服を縫ったりかぎ針で編んだりしていましたが、いずれもラオスでやっていたままのやりかたです。外食なんてした記憶がありませんが、母は素晴らしい料理人で、すべて手作りしていました。そんな環境で育ったので、作ることは毎日の自然な営みの一部でした。いま私が創作活動を行う動機は両親とは異なるかもしれませんが、私のアイデンティティの大きな部分を占めています。

amirisu: これからの方向性のキーワードかもしれませんね、「作ることは毎日の自然な営みの一部」というのが。専門家が仕事として、もしくは、アーティストだから作品を作る、という特別な感じのすることではなく。先ほどおっしゃったように、家族と過ごす時間がとても長くて、子供たちも作ることを楽しんでいますよね。そのようなクリエイティブな環境で子育てをすることについて、考えや想いを教えていただけますか?

アロウナ: 子供も老人も、年齢に関わらずすべての人にとって、クリエイティブな環境やアート教育は欠かせないものと信じています。アトリエを自宅に作ったことによって、仕事とそれ以外の境界線をぼやかすことができ、子供たちと多くの時間を過ごすことができるようになりました。私は私の仕事、彼らは彼らなりのやっていることがあって、それはクラフトであったり、それ以外であることもあります。でもアトリエを共有しているので、彼らもクリエイティブになれるし、それに自立も促していると思っています。別々のことをしていても同じ場所にいられるのも素敵だし、一緒に何かを作ったりするのはさらに素敵。家族全員が幸福感を感じ、子供たちに自分で作ることの価値も伝えることができる。構想を自分で形にし、完成させるという能力は、子育てのなかでも重要なことの1つだと思っています。

amirisu: 自分の子供のためにもそんな環境を作れたらと思います。両親の仕事ぶりや、仕事の幅が広がっていくさまを日々近くで見ることは、きっと大きい影響を与えているに違いありません。仕事の幅が広がるということに関して言うと、最近ファブリックをデザインしたのはどんな経験でしたか?

アロウナ: ファブリックのデザインはこれまでに経験したことのない挑戦でした。普段の仕事ではすべてを自分でコントロールできるうえ、慣れた手書きでほとんどの作業を行えるのにたいし、色々なことが違っていました。デザインを考え始めた当初、模様の繰り返しをイメージすることがとても難しかった。もちろん、私の作品でも連続模様を使ってはいますが、もっと面積が小さいし、シンプルな幾何学的模様をスタンプで押すような感覚で行えます。スケールが大きくなるとそれがイメージしにくく、さらに模様も複雑だし、多色だし、色のバリエーションはあるしで難しかった。でもこのプロジェクトを通じて色々なことを学びました。模様というものを別な角度から考えられるようになったと思います。このような挑戦を通じ、また新しい方向に自分を追い込むことで、より良いデザイナーになれるのだと思います。

amirisu: また仕事の幅が広がり、引き出しが増えたようですね。(WALNUTにもアロウナのテキスタイルが入荷する予定です。楽しみ!) 他には、新しいプロジェクトはありますか?今ワクワクしていることは?

アロウナ: まずは、もうすぐ上梓するパンチニードルの本がとても楽しみです。初めての本でもあるし、作業が膨大で本当に時間がかかりました。でもそれがすべて1 冊の本として見られるなんて、感無量です。それから、もっと旅行をするのが楽しみ。世界各地でワークショップを教えてきましたが、素晴らしい人々に沢山会うことができるし、初めての場所へ旅行ができます。これからももっとやっていきたい。直近では、スクリーンプリントした布と草木染めした布を組み合わせた、パッチワークキルトの大判タペストリーを作りたいと思っているわ。

 

Text by Meri
初出: 2018年amirisu 17号
写真提供: bookhou