11月 01, 2023

インタビュー
Julie Weisenberger Founder of Cocoknits

インタビュー <br> Julie Weisenberger Founder of Cocoknits
amirisu featured @Julie Weisenberger

 ▲著書『Cocoknits Sweater Workshop』を手に、Verenaカーディガンを着たジュリー・ワイゼンバーガーさん。

 

この業界には素晴らしいデザイナーや企業がたくさんありますが、なかでもジュリー・ワイゼンバーガーさんは私たちが心から尊敬するひとり。デザイナーとしてはCocoknitsメソッドという、セーターをトップダウンで編むための独自の手法を提唱していることで知られています。そして、この手法で編む補助となる数々のツールも開発しています。今回ジュリーにインタビューができて、とても光栄に思います。

 

 編み物を始めたきっかけを教えてください。

子供のころからクリエイティブなことが大好きで、いつも陶芸や絵を描いて過ごし、さらに自分の洋服も作っていました。ただし編み物に関しては、私が頼めば編み物上手な祖母がなんでも編んでくれていたので、自分でトライすることなんて考えもしませんでした。大学時代にオーストリアのザルツブルグ大学に留学したのですが、周りの人が編み物をしていたなかで、セーターが欲しくても祖母には頼めず、初めて自分で編んでみようと思い立ちました。そしてすぐに夢中になりました。

 

 Cocoknitsはどのようにして生まれたのですか?

80年代後半から90年代前半にかけて既成服のデザイナーをしていましたが、仕事の量は多いのにクリエディブなデザインの割合は少なく、達成感をまったく感じられていませんでした。そのうち、第一子を出産したあたりで思いついたのです。雑誌や毛糸メーカー向けの編み物パターンをデザインする仕事なら自宅でできるのではないか、と。インターネット時代より前の話ですが、これが私の自宅勤務の始まりです。

2番目の子供の健康上の都合から数年は休業したのですが、その後仕事に復帰したら、以前と比べて複雑な編み物をする時間も精神的な余裕もないことに気づきました。それに、当時自分のワードローブに欠けていた、日常的に着られるシンプルなニットを編んでみたくなったのです。そこでウェブサイトにシンプルなデザインを数点あげてみたものの、こんなにメリヤス編みばかりのものを編みたい人はいないだろうなと予想していました。ところがRavelryがこの頃スタートしたことも手伝って、より既製品に近いような見た目の私のデザインが注目されることになりました。

▲左:Cocoknitsメソッドでデザインされたセーターの山とジュリーさん。右Quinnカーディガン。

仕事と私生活とのバランスをどう取っていますか?

正直なところ、仕事に救われたと思っています。私の2番目の子供には障害があり、理想のキャリアなんてものは忘れざるをえませんでした。どれだけの仕事ならこなせるのか、クリエイティブに考えていく必要がありました。だからと言って、自分の達成感のために何かをしたいという気持ちは諦めることができませんでした。他の人に喜びをもたらし、クリエイティブで美やデザインに関われるような仕事ができたとしたら、子育ての悩みを一時だけでも忘れることができるのです。精神安定のためにも、自分の幸せのためにも、とても大事なことでした。

 

— Cocoknitsメソッドについて教えてください。なぜ、そしてどのように作りあげたのですか?

私は実は、ラグランや丸ヨークがとても似合わないのです。私が着ると、バストより上でヨークの編み地がダブつき、全然素敵に見えません。だからと言って、伝統的な綴じはぎのあるセットインスリーブのセーターは面倒ですよね。

ある日、リサイクルショップである高級ブランドのセーターを見つけたのですが、それは英国式テーラーの技法で立体的に作られていました。そこで、それをどうやって手編みのニットに取り入れたらいいのかリサーチをしてみたところ、魔法のように、あたかも彫刻で彫り出したかのような立体的な肩のラインが作られていました。しかも、肩の継ぎ目が後ろ身頃のほうに落ちてくるので、肩の一番高い位置に目立つ膨らみが減って、とてもクリーンに仕上がる構造です。

トップダウンでシームレスに編めるデザインを確立するまで、色々と試行錯誤を繰り返しました。セーターの各パーツ(前後身頃と袖) の増目を簡単に追っていくにはワークシートを使うのがベストで、これは日本のパターンを編んでいて気づいたことでした。前後身頃、袖といったそれぞれのパーツは色付きのマーカーで分割し、マーカーと同じ色の罫線を引いたワークシートに数字を書き込んで管理することで、よりわかりやすく確認できるようになります。

また、この方法を一度理解すれば、自分の体型によりピッタリと合うサイズ感を実現することが可能になります。まずは肩をフィットさせることからスタートします。肩周りがピッタリフィットしたら、自分に似合ったバストサイズと袖周りを選びます。これらは同じサイズかもしれないし、異なるサイズかもしれません。例えば、肩周りはパターンのサイズ1かもしれませんが、バストはサイズ3、袖周りはサイズ2のほうがフィットするかもしれません。サイズを選んだらワークシートを埋め、あとはその数字に従って増目をしながら編むだけ。最終的にはあなたにフィットするセーターが出来上がるという寸法です。

 

Cocoknitsメソッドでセーターを編んでいるところ

編み物を教える楽しみはなんですか?

今まで一度も自分に似合うセーターを編めたことがないという人々(特に女性)の手助けをするというのが、一番の喜びです。肩をまずフィットさせる方法を紹介し、袖とバストそれぞれにおいてのサイズ選びについて話し合い、終いには自分が目指すところのフィット感を実現するセーターが手に入るという感じです。こうやって編み手をサポートすることから得られる達成感は計り知れません。それだけでなく、ただ編み物が大好きな人たちと一緒に過ごすということ自体が楽しい。創造性が刺激されて、もっとデザインをしたいという気持ちになります。

 

ニットウェアデザイナーが毛糸も売るというケースを時々見かけますが、毛糸ではなくて道具を作ろうと思い立ったきっかけはなんですか?

そう、デザイン業で生計を立てようと思ったら、ありえない量のデザインをし続けないといけないという事実に、デザイナーはある日突然気がつくのです。すごいプレッシャーです。他のデザイナーが毛糸ビジネスを始めるのを見てきましたが、自分は自社の毛糸でしか編めないとなったらさぞかしガッカリするだろうと思っていました。私にとって、デザインの醍醐味のひとつは、様々な毛糸を使うことができる、そして素晴らしい毛糸メーカーと仕事ができるということだからです。そこは譲れませんでした。

と同時に、編み物道具のほとんどが、私の祖母が70年代に使っていたものとほぼ変わっていないことにフラストレーションを感じていたことも確かです。たいていが安っぽいプラスチックでできています。私の美意識や、いつも編んでいる美しい毛糸と、全くマッチしないということも気になりました。それに、道具の中には絶対に編み物をしない人が考え出したようなものもあって、世の中の人々が編み物を見下している感じに怒りも覚えました。私の父は木工が趣味で、道具は彼の宝物でしたし、誰もそれに疑問を持ちません。でも編み物は、そして編み物道具は、言ってみれば笑い物にされるレベルで、それを変えてみたいと思ったのです。そのクラフトを価値あるものにするのであれば、道具もその価値を反映するべきであると。

私が開発する道具が毛糸ショップで販売できるようなものであることも、非常に重視していました。Cocoknitsの使命のひとつは、世界中の毛糸ショップを存続させるために力を尽くすということです。それぞれ地域のコミュニティにとって欠かせない場所である毛糸ショップを、全力でサポートしたいと思っています。ですので、商品を作るときには手頃な価格とクオリティとのバランスを取ることを常に意識しています。誰もが道具ではなくて、毛糸にお金を使いたいものでしょう。でも、何点かの高品質な道具に投資し、地元の毛糸ショップを応援することは、編み物という趣味をもっと美しく、そして楽しいものにしてくれると信じています。

 

▲Cocoknitsの編み物ツール。

確かにCocoknitsの道具たちは色も形も可愛いものばかりです。商品に対して、どのような志を持っていますか?

ありがとうございます!どの道具も必要から生まれたものばかりです。理由もなく道具をデザインしたりはしません。そして、Cocoknitsは小さな独立した会社なので、ニットのデザインも道具のデザインも、私の気が向いたときに行うのであって、予定や計画が決まっているわけではないのです。

編み物を教えるときに生徒さんたちの要望を聞いたり、私自身が編む過程で問題にぶつかってなんとか解決しようと思ったり、そんなときにクリーンで革新的、そして使い勝手の良い解決策を探し始めます。旅行に持って行ったり片付けたりすることを考えて、できるだけコンパクトに、でもなくなりにくいように磁石を多様しています。もちろん、見た目も可愛くて環境に優しかったらさらにいいですよね。

Cocoknitsの商品が将来的に地球を汚染するようなことがないよう願っています。殆どの商品に普通のプラスチックではなく植物性の生分解性プラスチックを使っていて、それはサトウキビ、竹、トウモロコシを加工する過程で出てきた廃棄物からできています。植物性プラスチックは3Dプリンターで作られる医療用の移植片(体内で分解される)にも使われている素材で、安全性が高く、石油製品が含まれません。Cocoknits製品はどれも金属かリサイクルペーパー、布などでできていて、パッケージもリサイクルやリユースが可能なものを使用しています。高品質で、使うのが楽しいというのも大切です。

 

将来的にはどんなチャレンジをしてみたいですか?

私の推進力となってくれているのは、Cocoknitsで一緒に働くスタッフのみんな(全員女性)です。新しい商品やニットのデザインを続け、この会社を存続させていくことが、私の最初のゴールです。そして、世界中のどこからでも授業を受けることのできるようなオンラインクラスを現在準備中です。これからも自然の素材を使うことを世に広め続け、ポリエステル、アクリル、プラスチックといった石油製品への依存を減らしていきたいと思っています。私たちの声は小さいですが、私たちがもっと多くの人を編み物やかぎ針編み、ソーイングに引き入れることができるかもしれません。その人たちのファッションや買い物にまつわる決断がいかに、私たちが故郷と呼ぶこの美しい、回転する青い球体を傷つけない将来に繋がっていくか、理解してもらえたら嬉しいです。それに、衣服を自分で作ることは単純に楽しく、達成感を得られるのです。

 

仕事ではなく、趣味で編むことはありますか?個人的に編むのが好きなアイテムや毛糸はありますか?

私の趣味と仕事編み物は、とても渾然一体としています。純粋な楽しみのために編みたくても、結局Cocoknitsのパターンとなってしまうのです。例えば、友人の赤ちゃんのために産着を編もうと考えます。でも同僚がそれを見て、自分も編みたいからパターンを書いて欲しいと言ってくるのです。そうして生まれたのがBaby Bearというパターンです。地元の草木染めのスタジオ、A Verb For Keeping Warmの美しい手染め糸で自分用に小さなスカーフを編むとします。すると同じことが起こるのです。そしてMilli Kerchiefというパターンが生まれました。私が自分の楽しみのために編むような、とるに足らない小さなものでも、みんながパターンを欲しがるのにはびっくりします。Habuの糸でランプシェードを編んだこともあります。そしてこれから、Bread & Butterという糸でクッションを編もうとしています。いつも周りを見回して、何か編めるものはないかな、と考えるのです。私のため、家のため、植物のため(Knitted NestsFelted Podsなど)。40年経っても、編み物で実験するのはやめられません。

 

▲インディゴ染めのSarahカーディガンを着たジュリーさん。

 

All photos by Elysa Weitala, courtesy of Cocoknits.