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インタビュー: 河野晴子 / 写真提供: Rubinski Works
「ブージュー(Boozhoo)!」
聞き慣れない言葉で挨拶をしてくれたのは、アメリカ・ミネソタ州で活動をする、ビーズ作家のマディソン・ホラーさん。この言葉は、古の時代より北アメリカ大陸に住み着いた先住民アニシナアベ族の言葉で「こんにちは」を意味します。父方の家系がその血を引くことから、マディソンさんは先住民文化を現代的に取り入れた作品を発表しています。彼女の作品世界に足を踏み入れると、そのほかにも多種多様なエッセンスが。早速、紐解いていきましょう。
—— マディソンさん、こんにちは。今、どのような場所にいらっしゃいますか?
マディソン・ホラー(以下、MH):今、私はミネソタ中部にある、かつてアニシナアベ族が居住していた土地にある自宅スタジオにいます。いつも何かしら音楽を流していますが、今はモノフォニックスというサイケデリック・ソウルバンドの曲を聴いています。
記録的な積雪があった長い冬が終わり、これからサマータイムに気持ちを切り替えていくところです。雪解け後の湿った大地からチューリップの葉が顔を出しているので、まもなくここは緑鮮やかな楽園!そして、我が家の裏庭には、3本の大きな柳の木と小さな池があります。これが「1万の湖がある州」と言われるミネソタ州特有の景色なんですよ。
今日はパティオでビーズ作品を仕上げていました。私の側でポテト、パイ、スープという名の3匹の猫が太陽の下でくつろいでいます。
—— 素敵な環境ですね。それではまず、ルビンスキー・ワークスについて教えてください。
MH:私は主にジュエリー、壁掛け作品、モビールをビーズで表現する作家です。大学進学の時には、持病があるので、いずれは安定したオフィスワークに就かなければと思っていたのですが、やはり芸術家の道に進もうとアートスクールに入学しました。そこで版画、彫刻、美術史、絵画などを学んだことで、多面的な表現をこなせる職人になれたのだと思います。卒業後は、写真とジュエリー制作に取り組みました。8年ほど副業としていたルビンスキー・ワークスを2020年にフルタイムに切り替え、今に至ります。ルビンスキーというのは、父が私につけたあだ名なんですよ。
—— マディソンさんは、実に多様な文化を引き継いでいらっしゃるようですが。
MH:私の母方はオランダ系と北欧系の血筋で、親戚にはステンドグラス、かご編み、ピサンキー(卵のろうけつ染め)、木工芸などをする者がいました。父方は北アメリカの先住民、アニシナアベ族の血を引いています。子どもの頃から、年長者たちにビーズ、羽、木材、皮革などの手工芸を教わっていました。興味を持ったものを追求すること、愛を持って工芸と文化の交流に努めることを学びました。
—— マディソンさんの成長期において、「つくる」ことは大きな意味があったのですね。
MH:私はエネルギーが有り余っているような子どもでしたが、ビーズワークをすることで落ち着いた、集中力のあるもう一人の自分を見つけることができました。何時間もかけて、一つひとつのビーズに祈りや治癒の願いを込めながら繋げていくと、労力と愛情の結晶のような作品が出来上がります。そんなフィジカルで、機能的なビーズの世界に魅了されました。
—— 作品はどのようにつくるのですか?
MH:制作は特定の花や動物のリサーチから始めますが、スケッチはあまりしません。作品の土台となるメタルワイヤーは自由度の高い素材で、直感で形をつくる方が向いています。はんだ付けしたワイヤーの枠の中にビーディングをしますが、長年の経験から、 枠の形や角度に沿ってどのようにビーズが収まるのかがわかってきました。
使うのは針、ナイロン糸、蜜蝋とビーズぐらいで、材料よりもテクニックがものを言います。これは比較的新しい技術で、プロフェッショナルにやっている人はまだ少ないんですよ。
—— 暖かみのあるオレンジ、大地を思わせる茶色、差し色のターコイズ、全体を引き締める黒・・・マディソンさんの美しい色づかいに興味があります。
MH:自然で暖かみのある色調が好きですね。私は写真家でもありますが、太陽が水平線に沈むゴールデンアワーにシャッターを切るのが一番好きです。以前グラフィックデザイナーだったので、その経験がデザインや構図、色のコントラストや組み合わせにも生きていると思います。
—— 作品のモチーフの着想はどこから?
MH:私のモチーフは、私が引き継ぐ文化や私を取り巻く環境をミックスしたものです。一般の方々が身につけることが不適切と思われるレガリア(身分の高い人の装飾)や神聖な作品は、一般向けの販売をしていません。逆に言えば、私が売っているものは、すべてみなさんに気兼ねなく身につけていただけるものです!
自然界からも大いにインスパイアされます。ブルーベリー、白頭ワシ、蝶々、白樺、杉、ハチドリなど、大好きなものに囲まれて制作をしています。本当に素晴らしい自然環境にいることをありがたく思います。
—— 現在の課題や、今後の展望について教えてください。
MH:今は、ビーズや刺繍を施した衣服に取りかかるところです。私は1型糖尿病や特発性頭蓋内圧亢進症など、いくつかの疾患を抱えています。コンディションがよくない日がいつ来るか、わかりません。でも、性格が明るいんでしょうね。いい日をフルに使うことが何よりも大事で、喜びを追い求め続けたいから一秒も無駄にしたくないと思っています。こういった「メメント・モリ(死を想え)」の精神が私の秘密の力なのかもしれません。
ルビンスキー・ワークスの作品は、定期的にオンラインショップに登場します。詳しくはウェブサイトとインスタグラムから。
Rubinski Works
https://www.rubinskiworks.comInstagram: @rubinskiworks
写真2 (右側): ポートランドを拠点に活動するアーティストでデザイナーのブレット・P・ステンソンとのコラボレーション・シリーズ(2020年)。
写真4 (右側): わずかにバリエーションが見られる、白系のビーズを巧みに用いたツルの耳飾り。マディソンさんの作品の多くには、異なるポーズの鳥を美しく組み合わせたものがあります。
写真5: ブレット・P・ステンソンとのコラボレーション・シリーズ(2020年)。
写真1, 3, 6: マディソン・ホラー