11月 01, 2018

Lindzeanne: The Creative World of Modern Stitching - Issue 17

Featured Article by amirisu

 

Lindzeanne by amirisu

 

文化的背景の異なる人々の目を通して自分の世界を再発見するというのは、よくあること。クラフトが大好きな日本人として、刺し子は子供の頃から慣れ親しんでいただけに、ある意味当たり前で、創作活動の対象とは考えていませんでした。初めてLindzeanne ( リンジアン)の作品を目にしたとき(Instagram で発見したのですが)、刺し子を再発見したような気持ちになりました。シンプルな、ある意味瞑想のような針目を繰り返すことで、刺し子という範疇を超え、新しい世界が開けるのだなと感動しました。

ビンテージのボロ布や藍染の生地を繋ぎ合わせ、有機的な線を重ねていき、小さなブローチなどを作る彼女。小さな作品にはまるで宇宙のような不思議な深さがあり、バッグなどの大きな作品には、海の波のようなテクスチャが広がります。リンジアンが初めて来日したのは学生の頃、大阪でした。大学時代、思いつきで履修した日本語の授業が予期せぬ楽しさ。彼女とパートナが卒業とともに日本に来ることを選んだのは自然な流れでした。JET という英語指導助手のプログラムに参加し、任期を終えてからは東京へ。それから10 年。英語教師を続けながら、東京暮らしを楽しんでいます。

偶然にもWALNUT Tokyo の常連客になってくれていたリンジアン、お話を伺いたいと連絡をしたら二つ返事で快諾してくれました。

 

amirisu: いつもお店で毛糸を買ってくれているのは知っているのだけど、今では縫い物のほうが忙しそう。まだ編み物はしていますか?他の趣味はありますか。

リンジアン: 着るものはほとんど自分で縫うか編むかしていて、時々水彩画も楽しんでいます。ウクレレを弾くのも好き。とにかくやりたい事が多すぎて、1 日が24 時間しかないなんて短すぎだわ。もちろん編み物もしますが、1 日の時間も限られているし( それに実際問題として所有でき、かつ着られるセーターの枚数にも限りがあるので)、最近では複雑なことはしていないの。現在は、去年アイルランド旅行の際にKerry Woolen Mills で買った深緑のツイード糸で、トップダウンセーターを編んでいます。

amirisu: 素敵ですね。では早速、刺し子を始めたきっかけや、自分のスタイルに行き着いた経緯などを教えてもらえますか。

リンジアン: 手縫いや刺し子に辿り着くまでには、実はちょっと紆余曲折がありました。およそ7 年前、週30 時間働きながら教育学の修士号を取るために勉強していたころ、本当に毎日疲れていてストレスを抱えていたので、何かリラックスさせてくれるものはないかなと思って水彩画を初めてみたのです。たいていは変な生き物やキャラクターを落書きしてみたり、抽象的な模様を並べてみたり、という感じでした。特に上手だったわけでもありませんが、やっているうちに、自分がいかにクリエイティブな活動を欲していたかということを実感しました。

修士号を取ったら時間ができたので、ソーイングを始めました。ソーイングは子供の頃からずっとちゃんとやってみたいなと思っていたんです。洋裁に取り組むなかで、Instagram を通じてたくさんの素晴らしい独立系パターンメーカーやデザイナーを発見しました。ソニア・フィリップの「100 Acts of Sewing」というシリーズで洋裁について学んだようなものです。実際、今着ているほとんどの服は彼女のデザイン。シンプルなかたちが好きだし、ユニフォーム( 定番を制服のように着ること) という考えかたにも共感します。洋裁を通して編み物にも興味を持ち、1 年間のワードローブをすべて手作りすることができるようになりました。水彩画を時々やりながも、2 年くらいそんな感じで取り憑かれたように編んだり縫ったりしていました。でも次第に、自分の時間を色々な趣味に分割するのに疲れてきたのです。布地や編み地の手触りは好きだけれど、絵画の自由さや創造性にも惹かれました。私にとっての洋裁や編み物は、持続可能で環境に優しいワードローブを完成させるという目的を実現する手段であって、創造性を必要とするものではありませんでした。パターン通りには作れるけれど、そんなに楽しくはない。洋裁や編み物はプロセスではなく完成品重視の趣味でした。一方で、絵を描いていると、ミシ

ンや編み針を裏切っているような気持ちに苛まれました。どうしたらよいものやら!

amirisu: 気持ち、よく分かります。自分にとっても、編み物や洋裁はそれほどクリエイティブではないと思います。どちらかというと、実用重視。もちろん、自分でデザインしているときは別ですけど。それでは、刺し子はその絵画と洋裁のあいだだったわけですか?

リンジアン: そうなんです。Instagram を通じて少しずつテキスタイルアートに親しむようになって、あるとき試してみようと思いました。テキスタイルが好きな気持ちと、絵画の創造性や当てのなさを統合できるような気がして。それに、日本にこんなに長く住んでいるのに、茶道や書道などの日本的な趣味をひとつも持っていないという引け目のようなものもあったのです。刺し子と襤褸( ボロ) について知ったときには、「やっと見つけた、これだわ!」と感激しました。すぐに刺し子キットをいくつか買って試してみたのですが、型紙通りに縫うというのがあまり好きではないということに気づきました。私はどちらかというと気短で衝動的なところがあって、刺し子の整然とした、すべて均一の縫い目が実現できなくて、向いていない自分に少し失望してしまいました。

そのうち、インターネットでウィリーマイン・デ・ヴィラーズの作品を見るうち、テキスタイルアートや手縫いはもっと自由でいいのだ、ということに気が付いたのです。彼女の作品はとても緻密で女性的なのですが、同時に、水彩画で私がやっていたような模様を描くことを布上でも実現できるのだと気づかせてくれました。彼女の作品やInstagram のおかげで、クリスティン・マウワーズベルガー(Christine Mauersberger ) や沖潤子の作品に出会い、大変影響を受けました。長いあいだ探していた自分独自のメディアが見つかったのです。深く考えないでとにかくやってみることにしました。

amirisu: 彼女たちの作品をインターネットで見てみましたが、並み縫いなどのシンプルな縫い目でこんな作品ができるのか、と大変刺激を受けました。それで、自分独自の作品作りを始めてどれくらいになるのですか?

リンジアン: 実はまだ1 年くらいなの。でも水彩画から数えたら、7 年かけて自分に合ったメディアを見つけたプロセスと言えますね。絵画、ソーイング、編み物を通じて自分なりのデザインを身に付けていき、やっと表現手段に巡り合ったのです。手縫いに出会うまでには、色々な偶然やハプニングが重なりました。私にとって手縫いは、その時々の記録をする手段でもあります。( 実はこれが苦手なのだけれども) その瞬間に自分の意識を向けることが自然にできるようになるし、自分のその時の意識やエネルギーが作品となって残せるという手段でもあります。そしてさらに、環境にも優しく、そのうちに土に還るというのも嬉しいこと。それ自体が美しいことだと思うのです。それに、縫うことはとても自由だし。ともかく、永遠でないのがいい。シリアスになりすぎずにいられます。

amirisu: その長いプロセスのなかで、心の声に従って行ったら自分のスタイルが見つかったというのが素敵だと思います。色や、形や、ソーイングの要素をすべて詰め込んだものに。今気になる考えやアーティストはいますか?

リンジアン: スローファッションの背景にある理想や考えかたに本当に刺激を受けています。世界は、とりわけファッション業界は、無駄やゴミにあふれています。モノづくりをしているとつい、材料や道具を買いすぎるものですが、でもこれは作品作りのためだから、と自分を許しがち。私の作品作りには、リサイクルで買った洋服や、要らなくなった衣類、またはビンテージのファブリックしか使いません。それでゴミも減らせるし、それに、じっくりと時間をかければ、ゴミと思われていたものでも美しい作品に変身するのだという証明にもなるからです。創作活動に高い道具は必要ありません。使い捨てをやめて、リサイクルされた素材に手縫いをするのは、私のささやかな抵抗でもあるのです。

画家やテキスタイルアーティスト、両方にインスピレーションをもらっています。アグネス・マーティン、ルイーズ・ブルジョワ、そしてジョージア・オキーフの生きかたも作品も美しい。いつでもジョージア・オキーフのある言葉を心のなかで唱えながら作品を作っています。「空間を美しく埋めていく。」ジョアン・ミロの大ファンで、彼の作品から色の面で大きな影響を受けました。また、ヘレン・フランケンサーラー、ケネス・ノーランド、モーリス・ルイスらの作品からも刺激を受けています。マギー・ハンブリングの波の作品もとても気に入っています。

現代のテキスタイルアーティストでは、前出のウィリーマイン・デ・ヴィラーズ、クリスティン・マウワーズベルガー、沖潤子が一番影響を受けた3 人です。本当は最初はDMC の刺繍糸と刺繍枠で刺繍も試してみたのだけど、絵画にあまりにも近すぎて、それに何を刺したらよいか分からなくなってしまったのです。刺繍糸で植物や風景を刺繍する人たちを尊敬するけれど、 自分には向いていなかった。この3 人はシンプルな縫い目、シンプルなミシン糸や刺し子糸、そして単純な模様でも十分素敵な作品ができると証明してくれました。皆さんもぜひ彼らの作品を見てみてくださいね。

 

すごい情報量で、消化するのに時間がかかりそうですね。自分に合った手法に巡りあうまでの紆余曲折には、共感する人も多いかと思います。個人的には、ちょっと自由な刺し子をやってみようかなという気持ちになりました。

Instagram(@lindzeanne) ウェブサイト(www.lindzeanne.com) で是非彼女の作品をチェックしてみてくださいね。