7月 01, 2021

すべてが記憶を呼び覚ます、スイッチ
金工作家 CURIO 宇都宮檀

すべてが記憶を呼び覚ます、スイッチ<br>金工作家 CURIO 宇都宮檀

 インタビュー:宮下亜紀  /  写真: CURIO提供

 <石器 ishiki>

その名は、<石器 ishiki>。石のかたちを写しとり、ぴたりとおさまるようにつくりあげた、その名通りの、石の器です。道端にあればなんでもない、石。けれどそれは、途方もなく長い歳月をかけて磨かれてきた、自然をうつすかたち。地球のかけら。

CURIO」宇都宮檀さんは、金や銀、銅といった金属を主な素材とし、作品づくりをしています。かねてから石に惹かれ、手もとに置くうち、写したい思いに駆られたと言います。「写し」とは、この世にある美しいもの、心動かされたものになぞらえてつくること。写しとりたい、憧れ、尊ぶ思いが、そこにあります。

「同じように石が好きな友人に、旅先で見つけた石をおすそ分けするのにつくった蓋物が<石器 ishiki>のはじまりです。石のフォルムになぞらえて銅をたたいてつくった蓋物の中に、その石を入れて贈りました。とても喜んでくれて、嬉しかったですね」

穴を開ける、割るというような、手の加え方はせず、自然のままの在りようを活かした、檀さんの思いに寄り添うかたち。<石器 isiki>という響きは、「意識」ともとれます。

「無意識のものを、意識すること。そこから、美しいものが生まれると、感じます。大和言葉とも言われる、古来の日本語は、言霊を宿したものが多くて。言葉から触発されて、連想ゲームみたいにいつもイメージをふくらませていきます」

<石器 ishki>の中におさまる、石。手にのせて、あらためて、石そのものの美しさに気づかされます。手の中におさまる、何百年、何千年の重み。意識を持つことで、世界は違って見えます。

 

檀さんは、彫刻を志す中で、彫金と出会いました。現在は、兵庫・芦屋の奥池に暮らし、自然の中で制作しています。

「彫金をしている方とたまたま出会い、土壁のアパートにあった、その方のアトリエが素敵で始めました。偶然の巡り合わせだったんですけど、つくったものを喜んでくれる人がいて、つづけていくことになりました。つくりたいものをつくるというより、喜んでもらえるものをつくりたいという感覚。だから、つづけながら答え合わせをしている感じでした。どうして人はジュエリーを身につけるんだろう”“金属って何だろう”“どうして私は作品をつくるんだろう”……って。そんなふうにものごとを考えるのは、子どもの頃から。人ってどこから来たんだろう”“なんで生きているんだろうと四六時中考えていて、宇宙の成り立ち=生命の根源にも興味津々でした。それを見たところで答えはわかりませんでしたけど。見えないものの答えがほしいという思いがずっと変わらないんです」

<記憶>

答えを探る中、行きついたのは、古代。古代エジプトの金工を写すことがライフワークとなり、<記憶>と作品に名付けています。

「宇宙物理学者の佐治晴夫先生にお会いしたことがあって、どんなものをつくっているの?と尋ねられ、金と銀を中心に指輪やネックレスをつくっていますと言うと、宇宙は星の爆発から生まれました。金や銀は爆発の前段階でできた、星のかけらです。それを身につけられるようにするのは素敵ですねと言ってくださったんです」

それは、檀さんを再び宇宙とつなぐ言葉となりました。

「宇宙はすべての起源。宇宙がわかれば、自分のこともわかる。古代の人々が金属を身にまとっていたのは、宇宙と共鳴するものがあったからじゃないかなって。自分の中の記憶、起源を思い出させてくれるような、そんな力があるのではないかと思うんです」

 

 

金属を溶かし、叩いて、かたちづくる。金工は、古来よりつづいてきた、原初的な行為です。そのとき、金属そのものが「調う」瞬間があると、檀さんは言います。

「手を入れるのはここまででいいという、瞬間。木彫をしている友人もその感覚がわかると、共感してくれました。宇宙からやって来て、土に埋もれていた金属が、人の手によって調う。調った金属は、つけ心地良く、自ずと身につけたくなるものになる。ずっとそんなふうに思っています」

そうして、檀さんは指輪やネックレスといった装身具、茶道具など、自分自身が必要とする道具を手がけてきました。作品は多岐に渡るけれど、すべて「装置」をイメージしていると言います。

「記憶を呼び覚ます、「装置」。宇宙とのつながり、古代の記憶を思い出すための、スイッチというのかな。儀式みたいに、身につけること、触れることで、自分で自分を特別なものにする「装置」をつくっているのだと。最近になってはっきりと結びつきました」

宇都宮さんのアトリエの様子

 

次の展覧会に向けてイメージをふくらます中、気持ちが向くのが、「種」。六甲山の自然の中で暮らしているので、植物の種が身近にあります。「種にはいろんな記憶があると思うから。久し振りに植物と向き合いたい心境です」と、楽しげに話してくれました。種もまた、記憶とつながるスイッチ。誰かの心を、解き放ちます。

 

http://curio-live-design.com
https://www.instagram.com/curio_m_works/

芦屋・奥池にあるアトリエのオープンデイ、ならびに展示会など、スケジュールはSNSでお知らせ。

 amirisu 22号掲載