10月 29, 2020

土地から編み針まで〜毛糸の源流をたどる
Woolfolk

土地から編み針まで〜毛糸の源流をたどる<br>Woolfolk

初出: 2020年秋 amirisu21号
Interviewed by Meri

 

もし編み物によって貧困に悩む人々を助け、世界を少しだけ良くすることができたら?そんな想いで、本号では2つの毛糸メーカーを紹介することにしました。フェアトレードや環境への意識が高まるなか、どのような考えで、どのように、よりエシカルで環境に良いビジネスを行っているのか。NomadnoosとWoolfolkのオーナーへのインタビューをお楽しみください。

 

Kristin Ford, Woolfolk Yarns

 

クリスティンとは編み物業界に関わるようになった初期の頃からの知り合いです。初めて会ったのは彼女がまだ、とある毛糸会社で働いていた時で、amirisuを始めたばかりの私たちをとても助けてくれました。彼女が会社を辞めたあとも連絡を取り合っていて、何かすごいことをスタートさせようとしているのを感じていました。私たちがWALNUTをオープンさせた年にWoolfolkが立ち上がり、最初の毛糸を販売することができたことを、とても嬉しく思っています。

編み物の仕事を始めて以来大勢とお会いしてきましたが、クリスティンほど誰にでも優しくて素敵な人はなかなかいません。本当にセンスが良くて、彼女のデザインやファッションにたいする審美眼がWoolfolkの商品にも遺憾無く発揮されています。お会いするといつも自分で編んだ素敵なセーターを着ていて、本当にお洒落。そのセーターをぜひパターンにして、といつもお願いするのですが、適当に編んだから、と言って実現したことがありません。いつも細い糸で気の遠くなりそうな、とてもシンプルな何かを編んでいます。

クリスティンの毛糸の旅に少しでも関わることができ、彼女のストーリーをここに紹介できて光栄です。

 

クリスティンは5歳のとき、祖母から編み物を習いました。彼女の名前はキャサリン・テンプル・ウールフォーク。キャサリンはとても創造性豊かな自由な女性で、いつも何かを編んだり縫ったりしていたそう。ある日、バービー人形のスカートを作りたいと祖母に相談したクリスティン、そこで編み物を教えてもらいました。すぐに編み物に夢中になり、10歳になるころには自分でセーターを編むまでになりました。最初に編んだのは袖なしのセーター。手作りしたデイジーが沢山付いた可愛らしいものでした。

でも変わっていないのは、クリスティンがいつも自分が着たいと思うものを編んでいるということ。ただ、買う代わりにいつも自分で編んでしまうのです。キャサリンがかつて編んでいたように。

 

成長して建築家になったクリスティン、でも編み物はいつでも続けていました。30代になると、子供たちのために家にいるようになりました。子供が参加するスポーツイベントのあいだは、いつでも編み物の時間。水泳大会やリトルリーグの試合が続くあいだに、袖が丸々編み終わったりしたものです。そのうち、子供たちが大きくなると、クリスティンは毛糸業界で仕事を得ました。デザインや編み物にたいする情熱が、ついに一度に満たされる場所を発見したのです。最初はお店のスタッフとして、次第に会社のブランドマネージャーとして、キャリアを積んで行きました。

 

 

パタゴニア(南米のチリ)にOvis 21という牧羊家の協同組合があります。その北米担当営業の人がポートランド(オレゴン州ポートランド、Woolfolkの拠点)在住で、あるときクリスティンと知り合いになりました。Ovis 21は最高級のメリノウールをいくつかのアメリカのファッションブランドに供給していて、長期的に協同組合をサポートし取引してくれそうな新しい会社を探していたのです。即座に、彼らの生産するウールや仕事ぶりに特別なものを感じたクリスティン。家族からの励ましの言葉もあり、ある決断をしました。その年に収穫されたメリノウールを1トン、購入することにしたのです。ウールを工場で紡績してもらい、毛糸ショップのオーナーである友人たち数人に紹介しました。オフィスと倉庫は自宅の敷地内にある、農場のリンゴ小屋。ブランド名は、デンマーク系だった祖母の苗字からもらい、デンマーク語にちなんだネーミングを考えました。

 

始めたころ、一番難しかったのは資金のやりくりでした。人を雇う余裕はなく、発送などの作業は自分ですべてこなしました。ただし、ブランドに欠かせないインターネットでの発信は得意分野ではなかったので、ウェブを作れる人に投資をすることにしました。

Woolfolkはたったの3人でスタートしました。グラフィックデザイナーでウェブサイトも作れるヴァネッサ・ヤップ・アインバンドと、パターンの詳細を詰められる、ニットデザイナーのオルガ・ケフェリアン。ヴァネッサはウェブやロゴなど、一切をデザインし、今ではクリスティンに「センスの守護者」と呼ばれているのだとか。毎年何度か発表されるコレクションの方向性を決め、撮影まで行うのも彼女。オルガは2014年、2015年と、最初の2年間の全てのパターンをデザインしました。そのあいだ、クリスティンはカスタマーサービスと、発送を担当しました。

2014年の秋、1トンあった大量の毛糸は3ヶ月で底を尽き、もう後戻りはできなくなりました。

翌年、倍の量の毛糸を発注した彼女は、まだ自分ですべての発送作業を行っていましたが、あまりの量にオーダーが入るたびに イラつくようになり、周りからの勧めについに従ってメレディス・ホブスを雇い入れました。現在はメレディスがオーダーをすべてさばき、顧客からのメールに応え、トランクショーなどの手配も行っています。翌年ミヨコ・カンクロがチームに加わり、サンプル編みやデザイナーとのやり取りを引き受けました。ジュールズ・カンダはメンズサイズのデザインやスタイリングを、そして撮影のサポートを行っています。レネー・ロリオンはテクニカル編集とパターン作成を。今ではチームは6人になりました。

 

Woolfolkのブランドの基盤となっているのは、彼らを成功に導いたエレガントなデザインだけではありません。パタゴニアの農場と技術者の集まりであるOvis 21という協同組合が産みだしたメリノ羊の新しい品種によって、Woolfolkの毛糸にアルティメット・メリノ(究極のメリノの意)を使うことが可能になりました。メリノ羊特有の皮膚病の原因となる身体のヒダがないこの品種は、動物の健康と安全を考えて産みだされたもの。また、計画的に放牧を行い、ルールに従うことでパタゴニアの草原の回復に努めています。これらは動物の幸福にも、農場で働く人々の生活の質をあげることにもつながっています。目標は、環境の現状維持ではなく、より良い場所にするということです。

 

クリスティンはこう続けます。「興味を引かれたのは、持続可能を超えて、地球を回復させるというコンセプトです。昨年パタゴニアを実際に訪れ、初めてこの目で見て、体感することができました。Ovis 21は土地を今よりも良くすることに全力を挙げており、私たちも1カセごとに売り上げの一定の割合を協同組合に還元しています。土地を回復させるというコンセプトを自分の生活にも応用してみると面白いと思い、自宅の農場でも試行錯誤してみています。」 

収穫された原毛はペルーへ送られ、そこで環境負荷のできるだけ少ない方法で加工・染色されています。一般の毛糸ブランドと異なり、Woolfolkの色はクリスティンが自分で身に付けたいと思う色だけ。アメリカの北西海岸の景色にインスピレーションをもらっています。「色に名前がつけられなかったら、それはきっとWoolfolk向きの色」とスタッフがコメントしたことがあるのだとか。

 

現在、そして近い将来はCovid-19の流行によって大きく影響を受けました。チームは販売店がオンライン上で活動を続けられるよう、色々なリソースを提供する作業に追われました。ペルーの紡績工場はしばらく休業を余儀なくされましたが、今は通常の半分の人員で操業を再開しており、秋のコレクションの写真撮影も、ソーシャルディスタンシングを心がけながら、なんとか成し遂げました。 

 

この夏は新しい糸、STRAもリリースされました。素朴なリネンの繊維と、Woolfolkのトレードマークであるアルティメット・メリノが半分ずつ混紡された糸。ワイルドで表情に富んだ、でもとても柔らかくてデリケートな糸です。クリスティンのセンスと、新しいものを作りたいという情熱がうまく掛け合わされた結果だと思います。 

今後もWoolfolkを通じて、編み物業界をさらに一段高い場所へ引き上げるような商品やデザインを続けていきたい、とクリスティン。「建築など、他分野の考えかたを取り入れながら、さらに美しいものを生みだし、業界に新しい風を吹き込みたい。モダンでクリーンな、実際に着れるニットのデザインを、そして新しい糸を世に出したいというゴールに向かって、チーム一丸となって取り組んでいます。チームの皆には本当に感謝しています!」と最後に語ってくれました。

 

Photos courtesy of Woolfolk and Vanessa Yap Einbund

 

Ovis21と土地再生管理について

ウールは再生可能資源ではありますが、長期にわたって放牧されてきた土地は深刻な砂漠化の危機に晒されています。この分野の研究をしているセイヴォリー・インスティチュートによると、地表の3分の1は草原で、そのうちの70%が危機的な状況です。これまでにも大きな面積が砂漠化しましたが、原因はわかっていませんでした。

1960年代、ジンバブエ人の環境学者、アラン・セイヴォリーは土地の劣化や砂漠化に関する画期的な発見をしました。彼が発見したのは、かつては野生の草食動物が草を食べ生活することで草原の環境が維持されていたということで、自然のプロセスを模倣した計画的な放牧によって土壌が回復し多様性は増し、より多くの動物を放牧させることができるようになるということです。長年の研究と実証実験により、1980年代には包括的に土地を管理する方法を見出し、NPOを設立しました。現在でも彼の提唱する方法にたいする批判(温暖化ガスが本当に現象するのかが確認できていない)はありますが、世界各地での実践によって、包括的土地管理が実際に草原の状態を改善し、砂漠化を防ぐことが明らかになっています。草原が回復するとより多くの動物を放牧することが可能になり、それが温暖化ガスを増やすことに繋がるのではないかという懸念があります。科学者たちは現在、草原が回復することで増える植物の質量がこれをオフセットしているのかの検証を行っているところです。

パブロ・ボレーリとリカルド・フェントンは2013年にOvis 21という協同組合をパタゴニアで設立しました。現在、チリとアルゼンチンに広がる6千万ヘクタールの放牧地のうち、80%が危機的な状況にあります。彼らは協同組合をセイヴォリー・インスティテュートの南米拠点とし、地域の土地再生にむけて計画的な放牧に関する認定プログラムを整備しました。牧羊を営む農場経営者にたいし、包括的土地管理手法や動物の福祉に関する啓蒙活動を行っています。現在130万ヘクタールがこの認定プログラムに参加しており、手法に則って生産された羊毛はティンバーランド、アイリーン・フィッシャーをはじめとするアパレルブランドへ供給されています。

詳しくはアラン・セイヴォリーによるTEDトーク(https://www.ted.com/speakers/allan_savory)、セイヴォリー・インスティテュートのウェブ(https://savory.global/)Ovis 21のウェブをぜひご参照ください (http://en.ovis21.com)