10月 30, 2022

インタビュー
AND WOOL 村松啓市

インタビュー<br> AND WOOL 村松啓市

 

 

 

初出:2022年発売、amirisu25号。

編み機で作る高品質なニット製品を手掛けるAND WOOL。ニットの魅力を幅広く伝えるために、作り手の顔が見えること、未来につながる雇用やコミュニケーションの場を生み出すことをテーマに活動をしています。

ディレクターを務めるのは村松啓市さん。自身のファッションブランドmuucも手がけ、デザイナーとしても活躍しています。手作業、手仕事をどのようにビジネスに繋げているのでしょうか。

静岡県島田市にある茶畑に囲まれたアトリエ兼ショップで、規則正しく響く編み機の音を聞きながら、村松さんにお話を伺いました。

村松さんは文化服装学院のニット科出身。洋裁が人気で、ニットを選ぶ学生は少なかったといいますが、村松さんが興味のあったオートクチュールの洋服にはニットの技術が使われていることが多く、着たいと思う洋服もニットばかりだったため、ニット科を選びました。

卒業後は、イタリアの老舗糸メーカー「リネアピウ」に留学。ラルフローレンやアルマーニなど高級ブランド相手にプレゼンをする部署に配属され、トップクラスのニットデザインが集まる環境で勉強しました。そこで感じたのが、手仕事の価値とニットの無限の面白さ。外国語が話せなくても、言葉を介さなくても、一流の仕事は理解してもらえる。村松さんは日本で編み機の技術を学んでいたため、手仕事の技術を量産に落とし込む手段を伝えることができ、多くの人に喜ばれました。

 

その後、22~23歳で自分のブランドを立ち上げ、ファッションデザイナーとして東京で活動を始めました。そこで目の当たりにしたのが、ファッション業界の危うさでした。元々やりたかったのは、ニットで楽しいことをする企画会社のようなイメージでしたが、実際は時代に翻弄されながら会社を回すために次から次へと新しいものを作り続ける日々。時間に追われて、未来に向けての仕事をしていないと焦りを感じました。

さらに、工場との打ち合わせで出会うのは60歳を超えた方ばかり。職人の高齢化が進み、工場の数もどんどん減っており、作りたいものが将来作れなくなる不安を感じました。

 

また、イタリア留学では手応えを感じ自信をつけたものの、日本ではニットの専門家が少ないために、面白い取り組みをしても評価してもらえませんでした。解決するためには、技術の高さを話して聞かせるのではなく、ファーマーズマーケットの野菜のように、商品がどのように誰の手で作られているのかを知ってもらうと良いのではないか。そうすることで新しい価値が生まれるのではないか。もっと小さく未来のために動くため、村松さんは地元の静岡県に戻り、2016年にAND WOOLを立ち上げました。

 

AND WOOLのメイン商品は、手編みではなく、機械編みのストールやセーター、アームカバーなどのニット製品です。編み機で作りだされる整然と目の揃った柔らかなストールは特に人気の商品です。

AND WOOLの強みは、手を動かすことで生まれてくるデザインや作り方を、量産できるプロダクトデザインに落とし込むこと。デザインするだけでなく、生産効率も考え抜きます。手仕事だとどうしても値段が高くなりますが、高いものをごく一部の人に届けるのではダメ。効率を上げて良いものを作り、安くはないけれどちょっと無理すれば買えるくらいの値段にして、多くの人にニットの良さを知ってもらうことが目的だからです。

理想の商品を作るためには糸にもこだわり、国内外の多くの糸メーカーと協力し糸の開発をしています。

 

AND WOOLの製品の編み手には、さまざまな事情で外で働くことができない在宅ワーカーや、就労支援事業所で働く障害のある方も多くいます。ニットのいいところは、大したスペースも道具もいらないので取り組みやすいこと。在宅しても、アトリエに通ってもOK。手作業が苦手な方には編み機を貸し出して、ひたすらまっすぐ編んでもらい、得意な方には手編みでの綴じはぎや伏せをお願いしているそうです。

例えば、まっすぐ編む部分が多いストールの場合、生産から出荷までは、編み立て、綴じ、アイロン、梱包と4人くらいが関わります。セーターだと2人ほど。生産過程を分けて、できるだけ上手い下手の差が出ない作業を作り出すことで雇用を創出しています。

ある施設では月1万円だった給与を3万円まで上げることに成功したり、どんどん編み手の技術が上がったりと、作り手のライフオブクオリティも向上しています。

 

 

しかし、いいことばかりでもありません。

「手芸は趣味の延長。手作りなのになぜ高いの?」「障がい者が作っているのにどうして高いの?」などと、心ない言葉を投げかけられることもあるそうです。地球環境に良いことを考えたり、雇用を創出したりしているのに、理解してもらえない。安い服を否定する訳ではないですが、消費者が洋服に使う額も減っており、活動の理解を得ることが難しい時代になりました。

 

そんな中、消費者とのコミュニケーションを取り、活動を知ってもらうためにAND WOOLでは編み機や手編みのワークショップや、地域の人が集うイベントなどを積極的に開催しています。

村松さんの思うニットの魅力は、造形の面白さだけではありません。「デザインの仕方次第で、地域のコミュニケーションや編む人同士のコミュニケーションをデザインできる文化だと思っているんです」。

そんな場を作り出したくて、東京でデザイナーをしていた頃からWSを開催してきました。コミュニケーションの場を作り出すこともAND WOOLの取り組みの一つの柱になっています。

 

そして、AND WOOLのもう一つの強みは、編み機で作る製品だけではなく、装飾的でイレギュラーなデザインもできること。手作業で作る、世界に一つだけのニットのウェディングドレスを作っていたこともあります。ドレスの場合も生産効率がきちんと考慮されており、初心者でも参加できる簡単なデザインが組み込まれていて、見た目よりも簡単に作ることができます。東京でのデザイナー時代に舞台衣装を手がけていたため、派手なものを簡単に作る方法を考えることが得意なんだそう。

 

村松さんはAND WOOLの活動をしながら、自身のファッションブランドmuucで、洋服や傘、バッグといった小物も作っています。

muucのコンセプトは「服をキャンバスに、抽象画を描く様に 心の琴線に触れる美しさを追求する」。細やかな刺繍や揺らぎのあるプリント、熟練の技術を持つ職人と協力して工業用機械で作り上げる繊細なニットが自慢です。

muucでもこだわっているのは手仕事の良さを散りばめること。例えば洋服の刺繍は、まず手で刺してみたものを工場に持ち込み、手作りの雰囲気を再現してもらっています。イラストをそのまま機械で刺繍すると綺麗になりすぎてしまうためです。機械刺繍であっても手で刺した細かいニュアンスを大事に生かすようにしていて、それが村松さんらしさに繋がっているといいます。

 

そのほか、最近ではメイドインジャパンの羊毛を作る「ジャパンウールプロジェクト」にも携わっています。羊毛を洗う工場が数十年前になくなって以降、日本産の羊毛を作ることは難しくなっていました。そして、日本の羊の毛はゴワゴワしており製品化に適している訳ではありません。

しかし、日本中から有志の牧場やブランドが集まり、技術が完全に失われる前に復活させようと尽力しています。日本の羊毛100%だと硬すぎて服として着るのは難しいため、メリノウール70%、ジャパンウール30%のブレンド糸を作り出しました。AND WOOLでも、普及のため糸やセーターを販売しています。

 

これからやってみたいことは、海外へのアプローチ。

ここ数年の地道な活動によって、編める人材が育ってきました。昔はAND WOOLのスタッフが編み方を教えていましたが、今では編み手自身が他の方に教えられるまでになりました。次の課題は、販売先を増やし、より多くの人に製品を手に取ってもらうこと。高度な手作業の技術を持った会社は国内外でどんどん減っていますが、小さくても需要があるのは間違いありません。AND WOOLmuucの両輪で、未来に技術と作り手を繋げていく村松さんの今後の活動が楽しみです。


写真はAND WOOL提供
1枚目:静岡にある店舗の内観。
2枚目:アームウォーマーの指示書と、機械編みで編まれたサンプル
3枚目:ブランドmuucのためにデザインされたセーターやウェアなど。
4枚目:フルタイムとパートタイムのスタッフが工房で作業している様子。
5枚目:機械編みの作業の様子。
6枚目:No.2とラベリングされたAND WOOLの毛糸。

 

村松 啓市
ファッションデザイナー。文化服装学院、イタリアのリネアピウグループにてニットデザインを勉強。ファッションブランド”muuc”のデザイナーを務めながら、国内外にてショーやインスタレーションを積極的に行い、衣装制作やニット作家としても活動している。2016年にはニットカルチャーを広げるプロジェクト”AND WOOL” をスタートさせ、編み職人を育てたり手を動かす楽しさを伝えたりと、ニットや手仕事の可能性を追求している。

 

AND WOOL

427-0113 静岡県島田市湯日1124-1 
tel. 0547-54-4492 
fax. 0547-54-4493
営業時間: 11:00–18:00
定休日: -

https://wool-studio.com/
Instagram: @and_wool  

 

muuc
https://muuc.jp/
Instagram: @muuc.jp