1月 30, 2026

楽しく、賑やかに「食卓をパレードする」
irodori窯の練り込みの器たち

楽しく、賑やかに「食卓をパレードする」<br> irodori窯の練り込みの器たち

インタビュー 河野晴子

写真提供 酒井美華

 

 

ジグザグの山形文が淡いピンクとベージュで表された5寸皿には、ケーキを一切れ。薄紫とオリーブグリーンの矢羽根文がリズミカルに繰り返される大きめの角皿には、メインのお肉料理。市松模様の浅中鉢にはポテサラを盛りつけて、ストライプの長皿には少しおしゃれな前菜を並べてみよう・・・。

 

馴染みのある古典的な文様や、躍動感のある幾何学模様がモダンな色合いで表現されたさまざまな器を前に、私は食事やおやつの時間のたびに、こうした楽しい組み合わせに考えを巡らせます。

 

 

これらはirodori窯の器たち。一目でそれとわかる、親しみやすさとかわいらしさは、見る者のコレクション意欲を掻き立てます。柄で揃えるもよし、形で揃えるもよし。もちろん、すべてバラバラでもOK。一つひとつ違う形と色づかいでありながら、素朴な手触りと独特なデザインが調和の取れた世界観を織りなしています。

 

左:鱗模様を組む作業

右:型にかぶせて成形をする工程

 

 

作り手は、静岡県富士宮市に陶房を構える酒井美華さん。色の異なる粘土を組んだり積み重ねたりして模様を紡ぎ出し、型にかぶせて成形する「練り込み」と呼ばれる技法を用いています。

 

練り込みは、さながら金太郎飴や巻き寿司、あるいは寄木細工のように、規則性や反復性、断面から模様が立ち上がる造形を特徴とします。中国から伝わった技法だと言われていますが、はっきりしたことはわからないそう。酒井さんいわく、「私が目指すのは、古来の伝統をポップにモダンに伝承し、ファッション感覚で気軽に使用していただけるような器です」。

 

ものづくりの原点を遡ると、子ども時代から色や模様が好きだったという酒井さん。美術の授業でコンパスを使って幾何学模様を描いたことや、麻の葉模様の鍋敷きを作ったことが思い出されます。

 

やがて服飾の専門学校へと進み、アパレル業界での仕事を経験するも、そこでは進みたい道が見えず、酒井さんは地元の静岡に戻ります。家族の会社で事務職に就いたものの、クリエイティブな仕事への思いが捨てきれず、迷う日々。そんな時、陶芸教室へ通い始めます。

 

市松模様を組む作業

 

「そこで出合った練り込みという技法に衝撃を受けたことを今でもはっきり覚えています。この技法なら私が今まで好きだった色や模様ですべて表現できると思ったんです」。

 

この出合いを機に、酒井さんは平日の仕事をこなしながら、週末に工房に通うという日々を続けます。しばらくして工房のアシスタントにもなり、少しずつクラフトフェアで作品をお披露目する機会を得ると、百貨店のバイヤーやギャラリーから声がかかり始めます。

 

 

ファッションの素地に裏打ちされた優れた色彩感覚。繰り返す模様に垣間見られる揺らぎや味のある線。和食器の決まりごとを軽やかに覆す自由な発想。唯一無二の表現が多くの人々の支持を得て、酒井さんは自身のブランド、irodori窯を2010年に立ち上げます。

 

目に入るものすべてから刺激を受けると語る、酒井さん。自宅の壁にはお気に入りの民族調のインテリアやキリムが飾ってあるほか、洋服の生地、フロアタイルや壁のレンガの積み方、昔の建具など、彼女のアンテナにかかるものはすぐにメモや写真に留めるそう。エクセルでスケッチを起こしたり、頭の中でイメージしながら模様を組み合わせたり。広がるインスピレーションをプレート、小鉢、角皿、マグカップなどに展開すべく、住居に隣接する工房で一人、制作に励む日々です。

 

 

irodori窯の器のコンセプトを語る上で、こんな素敵な言葉が用いられています

──食卓をパレードする

器たちが食卓で賑やかに踊り出すような、なんとも朗らかなイメージです。

 

「食は目で楽しむことも大切です。ただ、いつでも手の込んだ料理を作れる人ばかりではありません。そのような中でも買ってきたお惣菜を移し替えるだけ、切っただけの野菜を盛りつけるだけでも、カラフルな器を使えばそれだけで賑やかな食卓になると思うので、私の器でそんなお手伝いができればと願っています」。

 

酒井さんにとって「つくること」は、すなわち「ワクワクすること」。今後は「他の素材での表現を探求したい」など、年齢制限がない陶芸への飽くなき意欲が言葉の端々から感じられます。「自分がワクワクする物をずっと生み出していけたらと思っています」。

 

テーブルの上をパレードするカラフルでかわいい器たち。彩りを振り撒きながら、irodori窯の器は私たちの日常にささやかな喜びをもたらしてくれます。

 

 

酒井美華

静岡県富士宮市出身。練り込み技法の器を展開するirodori窯主宰。世界中の伝統模様に、和の色彩を練り込んだポップな表現が多くのファンを惹きつけてやまない。月に一回程度の展示会と、注文制作を並行して行う。最新情報はインスタグラムから。

インスタグラム:

https://www.instagram.com/irodorigama/

 

今後の展示会

2026年2月13日(金)~2月19日(木)

ハンズ名古屋店9F 時トクラス