6月 06, 2025

「誰もやっていないことを」
山形・寒河江から世界へ、佐藤繊維

「誰もやっていないことを」<br>山形・寒河江から世界へ、佐藤繊維

佐藤繊維が手掛けるセレクトショップ「GEA」。

 

糸の紡績から服作りまでを一貫して担う佐藤繊維は、山形のニット産業を引っ張ってきたまさに中心と言える存在。

本社と工場はJR山形駅から電車で約30分、JR寒河江駅のすぐそばにあります。オリジナルのニットや国内外のおしゃれな洋服、雑貨を扱うセレクトショップGEAも併設されており、買い物やレストランでの食事も楽しめます。私たちは車で訪れましたが、車窓から穏やかな田園風景を眺めながら、電車で向かうのも良さそうです。

出迎えてくれたのは、代表取締役の佐藤正樹さん。佐藤繊維の成り立ちと挑戦についてお話を伺いました。

 

取締役社長の佐藤正樹さん。

 

佐藤繊維は1932年に創業し、今年で94年目を迎えます。
日本にはもともと羊がいませんでしたが、世界の列強国では高い機能性から羊毛が軍服などに用いられており、明治時代になるとウールの必要性が国内でも認識されるようになりました。近代化を急いでいた日本も羊毛の輸入を始めました。

しかし、戦争の影響で輸入が困難になると、国策として国内で羊毛生産が進められるようになります。結局、気候の違いや牧草地の不足といった問題から、羊の飼育は国策としては頓挫しましたが、佐藤繊維の創業者は各農家に羊を1頭ずつ飼ってもらい、年に一度毛を刈り取り、手紡ぎで糸を作り始めました。これが佐藤繊維の始まりでした。

戦後は外国から原料が入ってくるようになり、日本人の服が和服から洋服へと変わっていく中でニットの需要も高まり、山形のニット産業は大いに盛り上がりを見せました。

 

紡績工場の様子。

 

2代目社長が工場の機械化を推し進め、梳毛、紡毛の紡績機を導入。その後、3代目は糸だけではなくニット製品の生産も始めました。

しかし4代目である佐藤さんが会社に入社したのは、工場が規模を縮小し、ニット産業全体が翳りを見せていた頃でした。「にもかかわらず、父が7台も編み機を買ってきたんです。それらは10ゲージの編み機でしたが、その直後に12ゲージの機械が登場してしまった」と佐藤さん。10ゲージで編んだニットはトレンドではないため全く売れませんでしたが、太い糸を混ぜてみたり、さまざまな工夫を凝らして色々な編み地を作りました。

 

このように前向きに挑戦ができたきっかけは、イタリアでものづくりの現場を見てきたことでした。「工場を見学させてもらった時、スタッフが自社製品に熱い思い入れを持って語る姿や、誰かを真似することなく独自の糸を作っている姿に感動しました。自分でもやるぞと思ったんです」。

 

初めての自社ブランド「M.&KYOKO」を立ち上げたのは2001年。まずニューヨークで、その次にパリで、最後に日本という順番で発表しました。その後も、エイジレス&サイズレスをテーマにオリジナルのテキスタイルの表情を生かしたブランド「FUGA FUGA」や、普遍的なデザインと極上の肌触りを追い求める「991」などさまざまなブランドを展開しています。

 

自社ブランドの製品はGEAでも取り扱っています。


佐藤繊維の特徴は、トレンドを追わないものづくり。佐藤さんは「誰もやっていないことをやらなきゃ意味がない。自分たちで新しいものを作って切り開いてきたからこそ今があると思います」と話します。


新しい機械をどんどん導入するのではなく、細かにメンテナンスしたり改造したりすることで今ある機械の能力を最大に引き出しているのも佐藤繊維の特徴。

古い機械のメリットは仕組みが簡易であること。最新鋭の機械に比べて柔軟にカスタマイズがしやすく、カスタマイズも含めて全く同じ機械を他社が保有していないため、ものづくりをする上での優位性につながります。廃業する会社から古い機械を譲り受けて使い続けることもあるといいます。

一方で古い機械のデメリットは、部品がもう作られておらず買えないこと。どうしても必要な部品がある場合は、伝統工芸の洗練された技を頼り、地域の町工場に発注することもあるそうです。


過去の毛糸のストックのうち、少量しか在庫がないものは刺繍に使うことも。

 

対極の性質を持つ素材を混ぜたり、ヨーロッパではあまりしないという色々な種類のメリノを混ぜたり、これまでに作ってきた糸の種類はなんと4000種。

紡績工場では、カーテンやシートなどの資材から海外の高級ブランドに出荷する繊細で高品質な毛糸まで、1日に約4トンの糸を生産しています。イギリスやフランス式の紡績機のほか、ファンシーヤーンを紡ぐイタリア式の機械が常時稼働し、機械ではできない繊細な作業を人の手で担う工程も。2015年以降は、フランスのラグジュアリーブランドのメインサプライヤーリストに名を連ねています。

 

染色工場や編み立てを行う工場も近接しており、糸作りからニット製品まで、全てを手がける佐藤繊維。国内の毛糸生産のシェアを伸ばし続けています。

「日本に手紡ぎからスタートした会社は他にいないと聞いています。だからこそ、作る糸にプライドを持って仕事をしています」と佐藤さん。

20~30年前には業界で名前すら知られていなかった企業がここまで成長することができたのは、大量生産・消費の流れの中でも、人と同じではないことを恐れず、独自の糸づくり、服づくりにこだわり続けてきたから。

日本の羊毛は刈り取っても洗うところがないために、その多くが廃棄されている。今後の目標は、羊毛を洗える場所を作って牧場経営することです」。佐藤繊維の挑戦は続きます。

 


国内外からセレクトしたライフスタイルグッズも揃うGEA。
GEAは今年(2025年)で10周年を迎え、通年で各種イベントを開催中とのことです。

 

Access

〒991-0053
山形県寒河江市元町1丁目19-1

佐藤繊維
Website: https://satoseni.com/
GEA
Website: https://www.gea.yamagata.jp/
Instagram: https://www.instagram.com/___gea___/