あの時私は - Englishman in New York
今ではダンスはポピュラーな習い事のように思うが、私の子供時代にはとても洒落たものだった。小学6年生の時に出会った同級生は母親が家で油絵を書いていたり、家の中がまるでインテリアショップのように整っていたりと、私には眩しく見える家庭環境だったのだが、家が洒落ているだけあって彼女はクラシックバレエを習っており、私も時折彼女の発表会にお呼ばれした。その子との付き合いはたった1年だったため、発表会には2回ぐらいしか行っていないとは思うだが、初めて見る舞台メイクの激しさに驚いたり、拙いながらに綺麗な衣装を着て踊る彼女を羨望の眼差しで眺めていた。
そのバレエ教室は恐らく夫婦で経営しており、妻がバレエを、夫がジャズダンスのようなものを教えていたのだと思うが、発表会ではバレエ以外のダンスが見られるのも、私の密かな楽しみだった。ある時、先生と大人達が踊るジャズダンスの演目があり、そこでかかったのがSTINGのEnglishman in New York。会場中に大音量でかかるその曲に私はすっかり心を奪われ、踊っている男性陣がとにかく輝いて見えた。私にとっては、洋楽を身近に感じた初めての体験だったと思う。ジャズテイストの曲調、途中で入るドラムだけのパート。今でも帽子を被って踊るダンサーの衣装と派手なメイク、ドラムパートの時のライティングを覚えている。その頃からFMラジオを聴く習慣があったため、すぐにSTINGの曲だと判明。それから今日この時まで、Englishman in New Yorkは思い出が走馬灯のように駆け巡る私の大事な曲になった。
一昨年、STINGの日本ツアーがあり、実在のSTINGに会えるなんて!と芽理さんとワクワクしながら行った。もちろん私の大事なEnglishman in New Yorkは歌われたが、残念ながら私の頭の中の輝かしいSTINGではもうなかった。現実は私の頭の中を超えていかないということを思い知り、時の流れをまざまざと感じた瞬間であった。とはいえ、私の大事なあの歌はいつでも12歳の時の新鮮な驚きと喜びに包まれている。STING、素晴らしい曲をありがとう!