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今でも同じ建物がたくさん並んでいるところが苦手なのは、小学4年生の頃に団地で迷って帰れなくなった記憶があるからだ。
通っていた小学校の学区内に大きな団地があり、そこから通っている子どもたちもたくさんいたのだが、私の家は一軒家がポツポツと立ち並ぶエリアにあり、物心ついてから集合住宅というものに入ったことがなかったため、団地にはほのかな憧れがあった。
ある日、団地に住んでいる友達に誘ってもらい、学校が終わった後その子の家を喜んで訪ねた。だだっ広い家に住んでいた私にとっては、ともかく色々なことが初体験で、今でも玄関の小ささや、部屋いっぱいに置いてある2段ベッドの光景を覚えている。
友達と楽しく遊んだ後、おそらく玄関口でさようならしたのだろう。私はそこから団地を出て、家に帰ろうとした。したのだが、1時間歩いても団地から出られない。同じ建物が並んでいるため帰り道の目印がわからなくなったのだ。どんどん日は暮れ、気持ちは焦る一方だった。
その団地は小高い丘の上に建っていたのだが、もう手段を選んでいる場合ではないと思い、道では無い草むらの斜面をすべり降りるという手段で漸く帰り道にたどり着いた。とにかく恐怖の数時間だった。
でもそれだけではなく、友達家族が私の家とは全く違う暮らしをしている姿に驚き、カルチャーショックを覚えたのだと思う。あの混乱とその世界から戻れないという恐怖。団地を見る度に、その時の色々な感情が蘇り、不安な気持ちになってしまう。団地に罪はないのに。
昨年、私たちは田舎の一軒家を買い、今年は長年のマンション住まいからの卒業を予定している。大人になってからは広い一軒家より利便性の高い生活を重視していたのだが、人はやはり原点回帰をするものなのだろうか。あの出来事から私は一度も団地に足を踏み入れてはいない。