Choose your local currency to view our site in English
小学2年生の時に私はピアノからクラシックギターへ転向した。というのも、姉が我が家のグランドピアノを占領したからだ。なぜギターだったのかというと、父が習っていたから。楽器がすでに手元にあったのがおそらく大きな理由だと思う。
その頃日本では、映画やテレビの影響からかクラシックギターが大流行りで演奏人口も飛躍的に伸びたようだが、私が始めた頃からその勢いにも翳りが見え、段々と習っている人も減っている状況であった。
習いに行っている場所は全国的にも有名な教室で、小学生から青年までとても優秀な生徒が集まっていた。練習が大嫌いでサボることばかりを考えていた私も、優秀なみんなと行動することで上達も早かったのだろう。全国コンクールや演奏会に参加することも多かった。中学生活が難しかった私には、ここが所謂サードプレイスになっており、みんなと会うことで自分自身を取り戻す大事な場所でもあった。
中学生になった頃、夜に行われているギター合奏団の練習に参加することになった。中学生の私にとって夜のお出かけは楽しかったし、合奏も面白かったが、やはり年々衰退するギター業界の波をひしひしと感じざるを得なかった。合奏団には若者はほとんどおらず、50代以上の大人ばかり。夜ということもあったのだろうか、演奏にも勢いがなく、何か暗い重しが乗っているような時を過ごしていた。
ある日、新進気鋭の若いギタリストが合奏に参加した。私はスターと一緒に演奏できてワクワクしていたのだが、休憩の時に彼が私に苦笑いしながら言った。「こんな年寄りと子供だけの演奏なんてね。」業界がみるみる縮小していく雰囲気。自分の演奏する場が減っていく現実。その怖さをまだ子供の私につい漏らしたのだろう。
今でもあの時の彼のなんとも言えない表情と何も言えなかった自分を思い出す。私は16歳でギターを捨て、オーボエに転向した。それからみんなには会っていない。