8月 24, 2024
あの時私は - 緑のトンボ
幼少期からの情操教育に熱心だった両親の計らいで、私は幼稚園の頃から度々クラシックコンサートに連れて行かれた。田舎の小さなホールにそんなに有名な方はなかなかいらっしゃらないのだが、それでも年に数回はクラシックファンなら行きたいと思うプログラムが組まれることがあり、その度に家族揃って演奏会に足を運んだ。
当時は、子供のためのコンサートなどは存在せず、小さな私も大人のように黙って演奏を聞かないといけなかった。最低でも1時間半。いくら私がクラシックを聴き慣れていたとしても、その時間ずっと座っているのは辛いはず。が、私はやれた。私には緑のトンボがいたからだ。
母からもらったプラスチックの小さなトンボのブローチ。虫好きだった私には宝物で、毎回コンサートで着る一張羅に付けていた。音を聴くのにも、座るのにも飽きた時は、頭の中でそのトンボを自由自在に飛ばすのだ。今でも映像より本が好きなのは、自分の頭で考えたものをどうしても映像が超えていかないから。おそらくこの頃からの空想癖が原因なのだろう。
親たちはいつも大人しく座って演奏を聴いている私を褒めたり驚いたりしていた。私がその時間、空想でトンボを飛ばしているなんて、知らなかったに違いない。
今でも、あの時と同じような場面では、頭であの緑のトンボを飛ばす。私のトンボはいつでも自由に空を飛んでいる。