11月 01, 2023

Through the Lens - Issue 27

Through the lens for amirisu by Masako Nakagawa
Through the lens for amirisu by Masako Nakagawa

ちかごろ「睡眠の質」という表現を見るようになった。睡眠の大切さは今に始まったことではなく、ずっと語られてきたこと。「早く寝なさい!」夜更かしを試みる日は母に決まってそう言われたものだ。でも、質までは問われなかった。質も何も、ぐっすり朝まで寝るのが当たり前だったのんきな子ども時代。怪談を聞いてこわくてたまらなくても、いつのまにか眠っていた。

大人になった今でも、寝つきはよい方だと思う。ハードな仕事のあとは家族も驚くほど深く眠る。でも月に何度か、眠ることに失敗することがある。
良質な睡眠を阻害すると言われているふたつの条件が揃ってしまったとき。それは、カフェインの摂取とブルーライトを見ること。覚醒してなかなか眠れない。
実は今夜もそれをやってしまった。つい、うっかり。

ベッドへ向かう前に、昼間返しそびれていたメールを送ることにした。プロジェクトメンバーに新しいアイディアを送る。もうひとつ、よいアイディアが浮かび書き加える。これは楽しいことになりそうだ。調べ物も始めてしまう。義妹の台湾土産の香りのよい茶葉をポットにいれ、何度もお湯を変えながら飲む。

気づくとパソコンに1時間以上向かっていた。頭はわくわくするアイディアでいっぱい。同時にこれから急ピッチで進めないといけない項目も浮かぶ。いくつかの予定を調整する必要がある。カレンダーを凝視して可能性を探ったその時気づいた。

しまった。もう、1mmも眠くない。

焦りながらパソコンをオフにする。全身のストレッチをして、リラックスに効くというCBDオイルを舌下に垂らしてみる。布団をかぶり目を閉じる。瞼の裏にはスライドショーのように先ほどのアイディアがくるくる巡っていく。コントラストの強い色彩。あ、もうひとつ思いついた。

目はぱっちりと冴え渡っている。

ああ、やっちゃったな。あんな時間にマックを開くべきではなかった。台湾茶だってコーヒーと同じくカフェインを含んでいることをなぜ、思いつかなかった。

2時間ほど眠れず、もう諦めて起きることにする。わたしと眠気の距離は今、1kmくらいある。姿はほぼ、見えない。窓の外が淡いオレンジ色になってきた。朝だ。
今日1日を無事に過ごせるよう雲に祈る。次、夜にアイディアがあふれたとき、この教訓を覚えていられるだろうか。もう二度と忘れないようにしたい。眠るのだ、わたし。