6月 01, 2021

Through the Lens - Issue 22

Through the lens for amirisu by Masako Nakagawa
Through the lens for amirisu by Masako Nakagawa

 

ついに編み物を始めた。amirisuの撮影の仕事で出会ったメリさんとトクコさんに勧められていたけれどずっとどこか、人ごとで。それがこの、パンデミックで大きく変わった日々にふと、やってみようと。10歳の頃、ガーター編みでマフラーを編んだりしたくらいの経験しかない。けれど、せっかくならチャレンジを、ということでトクコさんが勧めてくれたマフラーは、こんな難しそうなもの、できるはずがないと思える素敵さだった。でも始めてみたら、難解な暗号に思えた編み図の記号は合理的な言語に過ぎず、複雑怪奇に思えていた美しい模様は、単に表編みと裏編みの巧みな組み合わせなのだった。完成形は196cm15cm編んでふう、と息をつきながらそれを思うとまるで、登ったことのない高山を見上げるような気持ちにもなった。でも一目一目、編む。学生の頃、陸上競技と水泳をやっていた。最近では山登りも始めた。それらすべてと似た行為だと、編み進めるうちにしみじみと思った。時に目指す先がとんでもない高みに思えても、それは、一歩ずつ足を前に進めることの繰り返しでしかたどり着けない。ゴールの遠さを見上げおののくのではなく、手元の一目に集中して、そして、楽しんでいればいつか終わりは来る。そんなふうにただひたすら編んでいたら、もちろん、終わりは来た。その頃には、終わるのがさみしいような気持ちにすらなっていた。それも、上に挙げたスポーツと似ている。どうしてそんなに大変なことを一生懸命に。人にそう聞かれることもあるけれど、あの、独特のトリップ感は忘れがたい。暮らし方も働き方も大きく変わったこの日々に、この経験はとても大切なメタファーのようにわたしの中に刻まれた。手が届かない壮大な何かに思えても、手元、足元のことをひとつひとつ積み重ねればよい。それは、スポーツや編み物だけでなく、多くのことにあてはまる気づきだった。編み物界の新入りながらどっぷり中毒を発症したわたしはすぐに、次のセーターに取り掛かっています。もうすぐそれも終わりが見えてきて、次の糸も既に用意してある。途切れないように。とても楽しい扉を、あけてしまった。すごく、楽しい

 

                  – Masako Nakagawa